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医師のキャリアは多種多様です。医局でキャリアを構築する道もあれば、医局を離れる選択する道もあります。今回は、医局を離れてクリニックの院長業をこなすかたわら、産業医としても活動するまるた医師に、医局を離れた理由や現在の働き方を選んだきっかけ、そして働き方の変化を伺いました。
自己紹介
まるた@整形外科・嘱託産業医
医師11年目。地方大学卒業後大学病院の研修を経て整形外科に入局。複数の関連病院で勤務し、都内のクリニックに転職。現在はクリニックの院長と産業医事業を両立している
医局を離れた理由と周囲の反応
——なぜ医局を辞めようと思ったのですか?
初期研修2年+医局員生活7年の9年間を経て医局からクリニックに転職しました。
もともとのきっかけは、手術から離れたいという気持ちでした。術前の計画から術後管理、退院後の外来までずっと気が抜けない感じにしんどさを感じていたのです。
ほとんどの場合は問題ないんですけど、「本当に大丈夫かな」っていう気持ちが続くこともあります。自分としてはうまくいったとおもっても、患者さんが意外と満足されないこともあり、心が休まらなかったですね。
患者さんに感謝されても、嬉しいというより「何事もなくてよかった」っていう安堵感の方が強くて。しかも、「自分以外の先生が執刀していたら、もっと患者さんの満足度が高かったんじゃないか」って思うこともありました。そういう気持ちが積み重なっていきましたね。
——医局を辞めることを伝えたときの上司、同僚の様子はどうでしたか?
仲の良い上司や同僚には、もともと手術が怖いという気持ちを打ち明けていたので、辞めると伝えたときもすんなり受け入れてもらえました。今でも飲み会やゴルフに誘ってもらえる関係が続いているので、そこは本当によかったなと思っています。
——家族はどのような反応でしたか?
家族は「好きにしな〜」って感じで(笑)。楽観的で決断力があるタイプなので、「手術が嫌いなら辞める、はい終わり、なんとかなるでしょ」みたいなノリで。その軽さに逆に助けられましたね。
——医局を辞めるときに就職先の不安はありませんでしたか?
県や医局によっては就職できなくなるという話は聞いたことありますし、うちの医局でも多少そういうのはありますね。ただ自分の場合は病院ではなくクリニックへの転職だったので、医局の影響はそこまで受けなかったです。とはいえ、結果的に県外に出ましたけど(笑)。
先輩を見ていると、医局を抜けて病院に就職する場合は、県内にそのまま就職するケースはほぼないですね。一度県外の病院に行って、落ち着いてから戻って関連病院に就職する、という流れはありますが…….。昔はいろいろあったみたいで。その辺はあまり深く聞けないですね。
クリニックへの就職と変化
——なぜクリニックを選んだのですか?
地方ならではなのですが、そもそも病院の数自体が多くないので選択肢が限られています。クリニックを選んだのも、手術から離れたいという気持ちと直結していています。
自分の中では「手術を続けるなら医局に残る、手術から離れるならクリニックへ」ってわりときっぱり決めていました。中途半端に病院に転職して手術も外来もってなるのは違うな、と思っていたので。
——地元から遠い都内のクリニックを選んだ理由を教えてください
理事長が診療以外にも幅広く携わっているという点が関係しています。具体的に何をしているのかよくわかっていませんでしたし、何が経験できるかはわからなかったのですが、普通に勤務医をしているだけでは味わえなそうな雰囲気を感じて、報酬が少し低くても今のクリニックに決めました。
漠然と「楽しそう」という直感と、どうなるかわからないからこそやってみようという気持ちで飛び込んだ感じです。単純に都内クリニックの経営ってどうなんだろとも思ったというのもあります。
——医局を辞めてクリニックに転職したときの気持ちや、前後での変化などについて教えてください
実際に辞めるとなると不安だらけで「本当に手術から離れていいのか」「キャリアはどうなるんだろう」「家族を養っていけるのか」って、いろいろ頭の中をぐるぐるしていましたね。
転職してみると、不安が完全になくなったわけじゃないんですが、心のゆとりは明らかに増えました。辞めても悪くなかったな、と今は思っています。
コメディカルも「患者さんのために何かできないか」「運営をもっとよくするには」って自発的に動いていて、そういう環境で働くのが純粋に楽しいですね。
——転職後の医局メンバーや家族の反応はどうでしょうか?
医局の先輩からは心配されることもありますけど、どちらかというと「クリニックってどうなの?」「給与はどれくらい?」「都内は、どう?」って聞かれることの方が多いですね(笑)。みんな興味あるんだなって。
家族からは、転職してから精神的に落ち着くようになったねって言われました。自分では気づいてなかったんですが、そう言ってもらえると、いまのところ悪くは無いなって実感しました。
医局から離れて感じたメリットとデメリット
——クリニックに就職してよかったと感じることを教えてください
給与は横ばいなんですが、時間単価で見るとかなり上がりました。そこは大きかったです。
時間単価が上がった理由のひとつは当直がなくなったことです。もともとは週4の日勤と外勤1.5日で当直は病院によりけりですが、月に2回から6回でした。
ですが、それ以上に医局時代は勤務時間外も手術や術後管理のことを常に考えていて、精神的に仕事から完全に離れられなかったことが大きかったですね。
クリニック勤務ではオンオフの切り替えがしやすくなりました。仕事以外の時間にしっかり頭を切り替えられるようになり、結果として自由に使える時間が増えたと感じています。
——クリニックへの就職でデメリットを感じたことはありますか?
基本一人診療なので、困ったケースがあっても相談できる同僚がいないんですよね。紹介して終わりになってしまうので、その後どうなったかフィードバックが得られないことも多くて。そこは医局時代と比べると物足りなさを感じる部分ではありますね。
教科書や論文で勉強はできても、自分の判断や治療方針が妥当だったのかをリアルタイムで確認できる機会は減りました。
医局時代は、上級医や同僚とすぐ相談できたり、その場でフィードバックをもらえたりしましたが、クリニックでは基本的に自分で判断する場面が多くなります。
あとから結果として答え合わせされることはあっても、その時点では孤独感や不安を感じることはありますね。
院長就任の経緯と業務内容
——クリニックの雇われ院長になられたとのことですが、どのようなきっかけで就任したのでしょうか?
クリニックに入職後、比較的早い段階で院長就任のお話をいただきました。もともとは理事長が整形外科クリニックの院長を兼務していましたが、組織体制の変更に伴い、院長を分けることになりました。
両施設を同一人物が院長として兼務することは難しかったため、整形外科側の院長を任せたいという形でお声がけいただいたのがきっかけです。
——院長に就任して収入面の変化はありましたか?
院長就任時点では報酬の変更はありませんでしたが、スタッフとの飲みニケーション代が別途支給されています。今後の報酬面については、実績をもとに交渉しようかなと思っています!
——院長の業務内容はどのようなものですか?
人事やスタッフの給与、集患、HPなどをやりたければやってもよいという感じでした。
ひとまずどうしたら集患につながるかをスタッフと話し合いながら進めているところです。
給与アップをどうするかも決めてはいます。こういった施策を考えるのは楽しいですね!
——クリニックの収益構造ってどのような感じですか?
保険診療を中心に、効率的な診療体制を整えながら、自費診療も組み合わせた運営を行っています。自費診療では、変形性膝関節症などの整形外科疾患に対して、PRP療法や幹細胞を用いた治療など、保険診療では提供できない治療の選択肢も用意しています。患者さんのニーズに幅広く対応しながら、収益面でも安定した運営を目指しています。
——開業は考えていますか?
いまのところ開業は考えてないです!
仕事ばかり考えて、不機嫌になってしまいそうで!
雇われ院長と産業医事務所の両立
——もともと産業医として活動していたのですか?
医局を抜けてクリニックに転職する際に、不安もあり医局在職中に産業医講習を受けました。始めは「とりあえず資格だけ取っておこう」と思っていたのです。ただ講習を受けて、健康経営というものを知り、実際に興味が湧きました。
そこからすぐに仲介業者を介して案件を獲得し、医局時代から有給使って産業医活動をしており、いまも継続しています。
——産業医としての業務にどのような魅力を感じていますか?
他業種の方とお話しすることで、自分の中でメリハリがつくことですね。どうしても病院、クリニックというと狭い世界になってしまいます。
雑談も面白いですね。仕事の内容や業界の動向、仕事へのこだわりなどを聞くことがあります。特に自分の仕事に誇りを持っている方のお話は熱量があって、こちらも刺激を受けます。
自分との面談で健康への意識が増えてもらえることもやりがいにはなっています。当初不健康のまま働き続けるひとが多いことにびっくりしました。
——産業医としての業務と医局やクリニックの医師としての業務で感じたギャップを教えてください。
産業医を始めて意外だったのは、健康にあまり関心を持っていないひとが想像以上に多かったことです。数年健康診断で異常を指摘されてもそのまま放置のひとがいることや通院中でも就業制限ギリギリみたいな人も多いですね。面倒であったり、異常と指摘されることを怖がっていることが多いようです。そこが産業医としてのやりがいみたいな部分でもあります。
——なぜクリニックの院長として就業しながら産業医も継続しようと思ったのでしょうか?
健康経営に興味があることですね。外来とは違う仕事があることでメリハリも生まれます。その2つがうまくマッチしていることが産業医を続けていくモチベーションになっていると思います。
——産業医事務所を設立した経緯を教えてください
事業として継続的に取り組んでいくことを考え、法人化しました。法人化のタイミングはクリニック転職後です。
——法人化にあたり苦労したことはありますか?
信頼できる税理士さん、社労士さん探しですね。知り合いの税理士さんでしたが、税理士として信頼できるかは、経験がないのでわかりませんでした。社労士さんは税理士さん経由で紹介していただきましたが、適正な費用かもわかりません。
必要な書類や手続きについてもまったく知識がなかったので、結局お二人にお任せする形になりました。最初は1人でやろうとも思いましたが、抜けがあったり法務局に行く手間だったり、時間が取れないため断念しました。
——クリニックの院長と産業医の業務はどのように両立しているのですか?
クリニックが平日週4日勤務なので、残りの平日1日を産業医活動にあてている形になります。いずれの企業様も平日の訪問を希望されるので平日の確保はマストですね。10社程度なら週1空いていれば、なんとかなるとは思います。ただ臨時の面談などが多いと、日程調整が大変ですね。
——最後に医局を辞めてクリニックの院長と産業医としての活動に邁進する現在の状態をどのように感じているのか教えていただけますか?
無理なく働けている実感がありますね。もちろん楽なことばかりではないですが、自分の適性や価値観に合った働き方に近づけたのは大きかったと思います。
医局員時代は与えられた環境で頑張っていましたが、今は自分で働き方を作っていく視点も大事だなと感じています。
最後に
今回は医局を辞めてクリニックに就職し、産業医としても活躍するまるた先生のキャリアの変遷をお届けしました。
医師として働くなかで、「どのようなキャリアを描けばよいのか」と迷うこともあるかと思います。まるた先生のようにストレスを感じる業務から離れて、自分の興味関心が強い分野に注力するという働き方は、非常に魅力的です。
本コラムでは、呼吸内科医のDr.心拍がさまざまな医師のキャリアの変遷を深掘りするシリーズを連載しています。キャリアや働き方で悩んでいる方のお役に立てる記事を更新していますので、ぜひ参考にしてください!
