「ゼロイチ」を創り続ける医師、吉永和貴に迫る

Dr.心拍がヘルスケア企業のCXOにお話を伺い、その人物像を掘り下げていくシリーズです。

目次

導入

Dr.心拍:今日は私が立ち上げたメディア「ドクター心拍のヘルスケア最前線」の取材にご協力いただき、ありがとうございます。それではまずはじめに、吉永先生の自己紹介をお願いできますでしょうか?

吉永先生:はい、吉永といいます。鹿児島出身で、大学から東京に行きまして、慶応大学の医学部を卒業しました。卒業後は、初期研修医として2年間働いた後に、オンラインの問診サービス「メルプ」を立ち上げました。

現在はそのサービスを運営するJMDCの子会社で活動しています。また、同じグループ会社である「Antaa」という医師プラットフォームのプロダクト責任者も務めています。さらには自分で新しいサービスを作りたいと思い、ハードウェアの「おしゃべり猫型ロボット、ミーア」なども開発しています。よろしくお願いします。

幼少時から熱中する才能が開花

Dr.心拍:ありがとうございます。たくさんお聞きしたいことがあるのですが、吉永先生とはお仕事を通じて数年来の関係性ですが、意外と昔のことを聞いたことがないなと思い、子供の頃についてお話を伺いたいと思います。子供の頃、将来、何になりたいと思っていたか、何か覚えていることはありますか?

吉永先生:私の父親は循環器内科の勤務医だったので、あまり自分から「こうなりたい」という明確な願望はなかったんですけれども、周りに医者が多かったことで自然と医師を目指すようになりました。親から将来何になりたいかと聞かれると「医師」と答えると、親が喜んでいたので、それに従ってずっとその答えをしていた感じですね。あまりかっこよくはないですけれど。

Dr.心拍:でも、医師系の家庭環境だと、自然と医師になるのは実際に多いですよね。

吉永先生:そうですね。

Dr.心拍:子供の時にどんな子供だったのか、親や親戚からの記憶は何かありますでしょうか?

吉永先生:私は結構熱中するタイプの子供だったと思います。レゴシステムといったブロックのおもちゃで一人で5,6時間くらいずっと遊んだり、ミニ四駆やヨーヨーなど手を使った遊びをよくやっていました。

Dr.心拍:それは今に通じる部分がありますね。私は自分が飽きやすいと思うので、一つのことをひたすらやり続けられるのも一つの才能だと思います。それが子供の頃から意外と凝り出すとハマってしまうという感じだったのでしょうか?

吉永先生:そうですね、そう思います。

Dr.心拍:ありがとうございます。では、次に大人になってからのことをお聞きしたいのですが、吉永先生ご自身を客観的に見たとき、どんな人物像だと思いますか?表現が難しいかもしれませんが、どんな性格や特性があるか、何か思い当たることがあれば教えてください。

吉永先生:そうですね、ゼロから何かを作り出す行動力は褒められることが多いと思います。少人数でプロダクトを作るのが得意で、あまり多くの人とワイワイしながら作るというのではなく、一人で黙々とコーディングしているというタイプです。

ターニングポイントは高校時の挫折と大学での起業家同級生との出会い

Dr.心拍:ありがとうございます。これまでの人生の中で、いくつかのターニングポイントがあったのではないかと思うのですが、思い当たることはありますか?子供の頃でも、最近のことでも構いません。

吉永先生:二つありまして、一つは高校の時です。私は鹿児島県のラ・サール高等学校に通っていたのですが、その学校には非常に優秀な生徒が多く、特に優秀なある生徒は東大の理科一類に首席で入るほどの人でした。彼は数学が本当に得意で、私が大学受験のために好成績を競い合ってきた中で、彼との出会いが挫折のきっかけにもなりました。

Dr.心拍:その生徒との出会いが自分の限界を感じることにつながったのですね。それが、数学や物理の道を諦めるきっかけになったんですか?

吉永先生:そうですね、彼の存在を見て、自分の限界を感じました。

Dr.心拍:さて、物理や数学に関しては、特に成績が良かったというお話ですね。それに対して、優秀な人たちと競うというのは、時にはプレッシャーを感じることもあるのではないでしょうか?

吉永先生:そうですね、物理オリンピックに出ているような優秀な人たちもいるので、どうしてもその存在に圧倒されることはありました。それに数学の世界でも、同じように自分より優れた人たちがたくさんいて、そんな人たちがいると、自分はまだまだだなと感じる時もありました。

Dr.心拍:進学校で学ぶと、全体の中での自分の位置も変わってきますよね。

吉永先生:そうですね。しっかりとした枠組みの中で、目的の大学に進学するために努力しないといけませんでした。そこで、今まで一番だった自分が、全く違う視点を持った人たちと混ざることで、ある意味良い刺激を受けたのかもしれません。それによって、挫折もありましたが。

Dr.心拍:その後、医学部に進まれたんですよね?

吉永先生:そうです。もう1つのターニングポイントは同じ慶應大学の同級生の田澤雄基君との出会いだと思います。彼は今も産学連携の分野で活躍されています。とてもアクティブな方で、大学5年の時に会社を設立しました。その時に私は誘われて、初めて起業を経験することになりました。最初は会社のホームページを作ることから始めて、それが私の第一歩でした。

Dr.心拍:そこからは、全く新しい挑戦が待っていたわけですね。

吉永先生:そうですね。ゼロからイチを作るという体験は、自分の思考を一新させるものでした。それまでは、テストで良い点を取ることが全てのように思っていましたが、実際にサービスを作るという経験を通じて、自分でアプリ開発をするようになりました。もしこの経験がなければ、起業や別の道を考えることはなかったと思います。

Dr.心拍:田澤先生との出会いは、大きな一歩だったのですね。

吉永先生:はい、本当に大きかったです。

Dr.心拍:田澤先生は以前、クリニックの運営もされていたと伺いましたが、その時のことをお話しいただけますか?

吉永先生:そうですね、最初はホームページを作ったりして、実際に医療業界で何を行うべきか考えていましたが、学生時代にそのような経験をすることは少ないと思います。私はたまたまホームページを作成することができ、PHPというプログラミング言語の本を手に取ったのがきっかけでした。

Dr.心拍:その後、いくつかのプロダクトを作るきっかけになったと。

吉永先生:ええ、そうですね。大学5年の頃まで、プログラミングはとても敷居が高いものだと思っていましたが、興味を持ち始めてからは、実際にやってみようという気になりました。

Dr.心拍:同級生の中で起業している方は珍しかったのではないでしょうか。

吉永先生:そうですね、私も周りにそういう人がいるとは思っていませんでしたが、田澤君はオリジナリティがあって、自分が何かをしようという意志が強い人でした。彼が私に声をかけたのも、1年生から仲良くしていたからだったかなと思います。

Dr.心拍:飲み会などで交流が深まったのですね。

吉永先生:そうですね。最初は学校の友達と飲むことが多かったですが、それを通じて仲良くなりました。特に、私は鹿児島から東京に出てきたばかりで、友人たちと交流することは新しい経験でした。

Dr.心拍:さまざまなサークルにも参加されたのですか?

吉永先生:はい、様々なサークルを回って、田澤君と一緒に飲み会に参加することもありました。それがきっかけで、さらに友人関係が深まりました。

Dr.心拍:その後、ホームページを作った後はどのように進みましたか?

吉永先生:会社では医学部生をインターンとして派遣したり、医療系の経営者の方を招いて講演会を開催したりと、様々なイベントを運営していました。また、医師国家試験の問題を簡単に解けるようにするために、ウェブサイト上でクイズを作成したりもしました。ただ、この会社は、私たちが卒業する際に売却しました。

↑当時作成していた医師国試対策のクイズサービスや、医療セミナーのカレンダー

Dr.心拍:それが田澤君の初の事業売却となったわけですね。

吉永先生:はい、そうです。私も関わっていましたが、私はどちらかというとプログラミングのプレイヤーという立ち位置での関わりが多かったです。当時は株式のことは全然分かっていなかったのですが、ある事業が売却されるのを目の当たりにして、少しは事業運営についての感覚がつかめたのは良かったと思います。

Dr.心拍:その経験が今の活動に影響を与えているのですね。

吉永先生:実際には、売却の際にはほとんど関わっていなかったので、詳しいことは知らなかったのですが、会社を設立して事業を行うということがどんなものか、なんとなく理解できたのはよかったですね。

学生起業の話題

Dr.心拍:なるほど、ありがとうございます。吉永先生が学生の頃にも起業していたことがあったと思いますが、そのことについて教えていただけますか?

吉永先生:はい、私が大学6年生の時に、田澤君が主催したアプリ開発コンテスト「AppliCare」に参加しました。これは単なるビジネスプランの発表ではなく、1ヶ月半くらいかけて、モックアップ、つまり動くものを作って発表するイベントでした。

Dr.心拍:それは興味深いですね。どんなチーム構成だったのですか?

吉永先生:その時、医学部の学生とソフトウェアエンジニア、ハードウェアエンジニアが3人ずつシャッフルされてチームが組まれました。全部で20チーム、約60人が参加したのですが、私はその中の一つのチームとして参加しました。ハードウェアの知識がある学生がいたので、薬の飲み忘れを防ぐためのタバコ型のケース「flixy」を開発して、審査員の前でプレゼンしました。その結果、たまたま開発が進んでいたことが評価されて優勝できました。

Dr.心拍:素晴らしい成果ですね。そのプロダクトはその後も何かしらの形で継続していたのでしょうか?

吉永先生:はい、その後2、3年の初期研修の期間もそのプロダクトに関わっていました。薬の飲み忘れを通知するアプリとして、今でも市場で見かけるものと類似の内容でした。

Dr.心拍:今でもあるということは、当時のアイデアが生き続けているということでしょうか。

吉永先生:そうですね。当時はリマインダー機能のあるアプリは存在していたものの、十分ではないという仮説を持っていました。タバコ型のケースに薬のシートを入れて、蓋を開けた時や飲んだ時を感知して知らせるというアイデアがあったのですが、結局、必要なニーズが無くてストップしてしまいました。

Dr.心拍:ニーズの見極めが大切だということですね。

吉永先生:はい、自分たちの開発がそのニーズに応えていなかったと振り返っています。一連の経験を通じて、ニーズがなければ無理に続けても意味がないと学びました。

Dr.心拍:それは大切な学びですね。実際に資金調達のプログラムにも参加されたと伺いましたが、その経緯についてもお教えいただけますか?

吉永先生:はい、リクルートのベンチャー支援プログラムに応募しました。最初に500万円の支援があって、仮説検証が上手くいけば追加で資金を受け取れるというものでした。運良く応募が通り、最初の500万円を受け取ったのですが、メンバーが社会人だったため、なかなかフルコミットできない状況が続きました。

Dr.心拍:その中で吉永先生はどう感じていましたか?

吉永先生:正直、二年間の間、悶々とした気持ちが続いていました。プレゼンで優勝したからには続けない訳にはいかないと感じていましたが、最終的に投資家にプレゼンした時には厳しい現実に直面しました。8人の投資家からの厳しいフィードバックを受けて、思い切って止める決断をしました。この経験から、サンクコストが積み上がる前にピボットする重要性を学び、早めに次に進むことの大切さを実感しました。

現在取り組むAntaaという医師向けプラットフォーム

Dr.心拍:それは貴重な経験ですね。現在、吉永先生が取り組んでいる事業について教えてもらえますか?

吉永先生:今は「Antaa」という医師向けのプラットフォームに取り組んでいます。

Dr.心拍:現在のプロダクトチームの責任者としての役割について具体的に教えていただけますか?

吉永先生:はい、私はこのプロダクトチームの責任者をやっておりまして、エンジニアは業務委託を含めて約7名います。何を優先順位に持って作っていくかを考えたり、デザイナーの方と打ち合わせしながらサービスのモックアップ、次はどのような画面にするかを決めたりするのが半分ぐらいの仕事です。また、2016年に創業し、今は8期目、9期目に入ったところで、ユーザーもたくさんいる会社ですので、ゼロからイチというよりは、グロースのフェーズです。

猫型ロボット「ミーア」

Dr.心拍:ありがとうございます。最近では、猫型ロボットがメインになっている気がしますが、現在の感触はいかがでしょうか?

吉永先生:そうですね、猫型ロボット「ミーア」については、3人で取り組んでいるので、ハードウェアや電子回路の部分、さらにはマーケティングも手がけています。リリースしたのが2024年6月10日で、ちょうど4ヶ月経った時点で約120個ぐらいの売り上げがあり、1日に1個ぐらいのペースで来ています。

Dr.心拍:なるほど、ハードウェアをちゃんとリリースしたのは初めてとのことですが、何か課題に感じることはありますか?

吉永先生:そうですね。在庫を抱えすぎるとコストが見合わないことがありますし、キャッシュフローが回らなくなるリスクもあります。一方で、注文が殺到した時には、在庫がないといけないという厳しい状況に今直面しています。このバランスが難しいですね。

Dr.心拍:確かに、そのバランスを取るのは難しそうですね。猫型ロボットの開発はいつから始まったのですか?

吉永先生:具体的には2023年の4月から着想し始め、製品化には約1年かかりました。

Dr.心拍:それで現在、4ヶ月経ったということですね。チームはどのような構成になっているのでしょうか?

吉永先生:一人はソフトウェアエンジニアで、サーバーサイドのアプリとインフラを担当しています。もう一人はプロダクトデザイナーで、3Dプリンターを使って周りのデザインをしています。さらに、その方は他にもハードウェア製品の開発経験が豊富で、今後、量産する際の工場選定にも協力していただく予定です。

きっかけは訪問診療

Dr.心拍:なるほど、とても魅力的なチームですね。吉永先生がこの猫型ロボットを作ろうと思ったきっかけはなんですか?

吉永先生:もともと訪問診療をしていた際に、一人暮らしの高齢者が多い地域があって、話し相手が必要だと感じたことがきっかけです。また、一人暮らしの方から「もう行っちゃうの?」という言葉をよく聞きました。それに対して何かできないかと思っていたのが一つの要因です。

さらに、ある高齢者の方がオウムを飼っていて、オウムはあまりおしゃべりしないけれども「こんにちは」や「ありがとう」といったフレーズを面白い口調で言うだけで、その方はとても癒されていました。それをヒントに、少し幸せになるのではないかという仮説から作り始めました。

Dr.心拍:なるほど、それはとても素晴らしいアイデアですね。一人暮らしの人々のサポートになるプロダクトとして大きな価値がありそうです。吉永先生は、ソフトウェアとハードウェアの開発の違いについてどう考えていますか?

吉永先生:簡単に言えば、ハードウェアは「物がある」ことで、ソフトウェアは「形がない」という感じです。ソフトウェアの場合、ウェブサービスやアプリなど、在庫を持つ必要がなく、エンジニアがコードを書くだけでリリースできる点が大きなメリットですね。ハードウェアは製造コストや在庫管理が加わってきますので、より複雑な面があります。

また、何を作るかによって必要なものが異なります。例えば、ロボットのように動くものを作る場合は、電子回路やソフトウェアなど、別のノウハウや経験が必要になります。また、ハードウェア用のプログラミング言語もあり、ソフトウェアのプログラミング言語とは異なるため、ゼロから勉強しなければならないです。

Dr.心拍:そうですね、ありがとうございました。確かに物の有無については変わってきますね。

吉永先生:私も過去にハードを作ったことがありますが、うまくいかなかった経験があり、その分心残りもありますので、今後はハードでも何か一つ成し遂げたいという野望は持っていました。

Dr.心拍:そうなんですね。実際にハードウェアの開発については、どのような経験をお持ちですか?

吉永先生:実は、以前に、脳波を読み取って睡眠を改善するイヤホン型の脳波デバイスや難聴者の方にも聞こえやすい360°方向の無指向性スピーカーなどを開発したりしていたのですが、なかなかうまくいきませんでした。最終的に、今の猫型ロボットのプロジェクトに取り組んでいます。

一番深い睡眠とされるN3のステージの脳波に達したら音を流すことで、睡眠の質を自動で改善するイヤホン型脳波デバイス「EarBrain」のプロトタイプの変遷

Dr.心拍:なるほど、脳波を取得する際には部品の問題などがあったのでしょうか?

吉永先生:技術的にはその通りです。イヤホンを使って脳波を取り込もうとしていたのですが、非侵襲的に微弱な脳波を取得するのが、技術的に難しかったです。

Dr.心拍:やはりイヤホンのサイズも影響したのでしょうかね。

吉永先生:そうですね、イヤホンという小さなデバイスから脳波を取得するのは厳しかったです。

猫型ロボットの展望

Dr.心拍:話は戻りますが、現状、猫型ロボットは販売し始めたところとのことですが、マネタイズのアイデアなどはありますか?

吉永先生:猫型ロボットの開発では、ハードウェアとして一定のコストを意識しなければなりません。マネタイズについても工夫が必要だと考えています。

今のところ、9800円で売り出しているので、たくさん売れてもそれほど大きな利益は見込めません。ただ、来年には英語版に対応してグローバルな展開を目指したいと思っています。メルプの時はソフトウェアでの試みでしたが、グローバル展開までは行けなかったので、ハードでの挑戦もしてみたいと思っています。

Dr.心拍:素晴らしいですね。その収益モデルについては、何か新しい機能やサービスを考えているのでしょうか?

吉永先生:最近では、アプリを介してお孫さんやお子さんの声を録音し、それを猫がしゃべる機能をリリースしました。これを一部有料サービスにし、月額課金にすることも検討しています。たとえば、月額300円程度の少額ですが、もし多くの方に利用していただければ、少しでも利益率を上げられるかなと思います。

Dr.心拍:そのような試みは確かに利益率の向上に繋がるかもしれませんね。では、この製品を開発するにあたって、競合や市場の状況はいかがでしたか?

吉永先生:海外では、ファービーと呼ばれるふくろう型のロボットが2000年頃に発売され、60ドルほどで売られていました。国内にはアイボなども存在しますが、私が感じるのはペット系のロボットが高価格で手が出しにくいということでした。そこで、今回は一万円以下で作ってみました。

Dr.心拍:価格設定も重要なポイントですね。

吉永先生:そうですね、そのおかげで競合にはなるものの、マーケットとしては被らないのではないかと考えています。

Dr.心拍:それは面白いですね。独自性についてはどうお考えですか?

吉永先生:価格帯において独自性があり、さらに目の表情が豊かなので、喜怒哀楽をしっかり表現できていると思います。目の動きや表情の豊かさと、方言を含めたフレーズの種類が、この製品の独自性の一部です。

Dr.心拍:目の表情にこだわるポイントは非常に興味深いです。

吉永先生:もともと猫のロボットは口も動くようにデザインしていましたが、サイズの関係で口を削って目に注力しました。アニメのような表情を持たせることに関しても試行錯誤しました。Figmaというデザインツールを使って、100種類以上の目のデザインを描きました。

Dr.心拍:面白い取り組みですね。会話形式の表現や動きなど、どれだけ多様な反応を見せるかは、確かにロボットの魅力を引き立てます。

吉永先生:そうですね。表情や動きが豊かであれば、やはり面白さを感じていただけると思います。

Dr.心拍:ほかに何か課題感があれば教えてください。

吉永先生:そうですね、今の課題はやっぱりマーケティングです。認知をどう広めていくかというところですね。今回、主に一般消費者向けに展開したのですが、ターゲットが全然違うので、今までやってきたマーケティング戦略も、SNSのショート動画を活用したりしているんですが、もっと多くの人に知ってもらうためには、インフルエンサーの方にお願いするとか、別のアプローチも必要かもしれないなと思っています。

Dr.心拍:確かにそうですね。数字的に見ると、いきなり広めるのは難しいですよね。

吉永先生:そうですね、難しいです。現在、SNSアカウントを使って発信もしていますが、まだ課題感が多いところです。

Dr.心拍:現在はどのSNSを使っているのですか?

吉永先生:Twitter(X)InstagramTikTokYouTubeなど全てのプラットフォームでほぼ毎日投稿しています。

Dr.心拍:全部やっているんですね。

吉永先生:はい。ただ、やっぱり実物を見て買うという人も多いので、店頭販売のような直接体験ができる場所があれば、また違ったのかなとも考えています。実際に来てみたら思ったより小さくて買ったという人もいたので、どこまでその部分をやるかは今考えています。

Dr.心拍:そうなんですね。SNSアカウントのフォロワー数もまだ課題感があるという感じですか?

吉永先生:徐々に増えてきているのですが、今は100から200ぐらいの間ですので、まだ全然少ないですね。ちょっと地道に頑張るか、全然違う手法を取らないといけないのかなと思っています。

Dr.心拍:確かに、それぞれのSNSには得意なものと不得意なものがありますよね。私もXでの発信は比較的得意ですが、Instagramになると途端に難しくなります。

吉永先生:そうですね、インフルエンサーに依頼してコラボするのも一つの手かもしれませんね。

Dr.心拍:在庫問題も同時に発生しているのですか?

吉永先生:はい、もう少し在庫があればいいのですが、キャッシュフローの問題もあります。例えば、1日に1個ぐらい売れているとすれば、半年分ぐらいの在庫を抱えても良いのかなとも思っています。ただ、売れなくなる時期や新しいサービスをリリースするときは、それが変わる可能性もあるので考えています。

Dr.心拍:なるほど、何か改善やバージョンアップは考えていますか?

吉永先生:はい、バージョンアップも考えていて、例えば、顔をマグネット式で取り替えられるようにしたり、持ち運びが簡単になるようにバッテリー対応を考えたりもしています。古いバージョンだけの在庫を持てばいいのかと考えたりもします。

Dr.心拍:面白いですね。逆に、今後時間が経過したときに、初代のものにプレミア感が出たりするのかもしれませんね。

吉永先生:そうですね、そういう理由で買ったりする人もいたりしますからね。誰しも便利なものを求めがちですが、逆に古いアナログ的な魅力に惹かれることもあります。歴代シリーズをセット販売するのは面白いアイデアかもしれませんね。

今後の目標は人工冬眠の研究!?

Dr.心拍:今後の目標みたいなものはありますか?

吉永先生:実は、あまり具体的な目標はないのですが、その時々で興味を持つ内容が変わることはあるので、興味を持ったらやるタイプなんです。

Dr.心拍:突き進んでやるタイプということですね。

吉永先生:そうですね、ただ2、3年経つと飽きてしまうタイプでもあります。同じことはやりたくないと思っているので、現在はソフトが終わった段階で、次は研究の方もやろうとしているところです。

Dr.心拍:興味を持っている研究テーマはありますか?

吉永先生:現在は臓器再生や人工冬眠という分野の研究を予定していて、来月くらいから始まるかもしれません。今はその研究に興味があります。

Dr.心拍:今後はその研究と今の事業を並行して進めていくという感じですか?

吉永先生:そうですね、研究も始めながら、今の事業を続けていくという形です。

Dr.心拍:基礎研究を学生の頃にも少しやっていたと伺いましたが、いかがでしたか?

吉永先生:そうですね、学生の時は、大脳皮質の6層構造を制御するタンパク質の働きを研究していたのですが、実際には本当にさわり程度でした。ただ、約4年ほど研究を行っていましたので、研究の大変さはなんとなくわかっているつもりです。常にマウスに飼われる感じの生活を送っており、年末帰省できないということもありました。

Dr.心拍:新たに研究を始めるとなると、確かに大変だと思いますが、何か具体的な目的や興味を持ってスタートされるのでしょうか?

吉永先生:そうですね、飽きずに長く続けられそうなテーマが見つかればと思っています。アプリなどであれば、今は比較的簡単に作れることが分かっているので、大変ではありますが、もう少し課題的に難しいものに挑戦したいと考えています。

メルプの立ち上げから売却まで

Dr.心拍:ありがとうございます。少し話を戻しますが、初めて事業として成功された「メルプ」についてお伺いしたいです。吉永先生と言えば「メルプ」というイメージが強いのですが、その事業の概要や、なぜそのような事業を立ち上げようと思ったのか教えていただけますか?

吉永先生:そうですね。メルプは、外部から資本を入れることなく、自己資金だけでやっていました。私ともう一人のエンジニアの二人で始めて、初期の頃は開発を中心に行っていましたが、その後は病院への影響や打ち合わせ、カスタマーサポートなど、エンジニア以外の業務も全てこなしていました。着想としては、田澤君が医師3年目のときに「MIZENクリニック」を豊洲に立ち上げるサポートをし、週に一回医師としても診療に入っていました。そこで使用していたのはクラウド型の電子カルテで、開業当初は問診が紙だったため、最初は紙の問診を電子カルテに書き写して準備をしていました。

Dr.心拍:なるほど、それは非常に手間がかかりますね。

吉永先生:そうですね。それを何とかならないかと思っていました。また、冬の時期にはインフルエンザでほとんどの患者さんが同じ症状で来るため、毎回同じ質問をしていました。そこで、あらかじめ定型化して事前に情報を得られるようにしたいと思っていたんです。これが最初の着想でした。オンラインの問診も構想しまして、LINE風のチャット形式で問診ができるシステムを作りました。

Dr.心拍:素晴らしいですね。メルプの時の試行錯誤については以前の記事でも読みましたが、そこから「JMDC」にJOINすることになった経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか?

吉永先生:いくつかの経緯がありますが、最初は上場を目指していました。しかし、問診の売り上げだけでは上場は厳しいのではないかと感じ始めました。その時点では上場の基準も分かっていなかったので、ただなんとなく難しそうだと思っていました。また、問診のデータを製薬会社などに二次活用してもらうことで、もっとスケールできるようなマネタイズが必要だと思うようになりました。

Dr.心拍:その考えが徐々に固まっていったのですね?

吉永先生:そうですね。約200件の病院に導入し、ゼロからイチのフェーズが終わった頃、飽きが来てしまったというか、この後は、グロースのフェーズに入るので、基本的には有限解であるマーケティングを優先で尾を決めてひたすら繰り返すことになるのではないかなど、再現性が高い業務が多くなってくるのではないかと思い始めました。それに、医師3年目という時期に起業したため、周囲は専門医を取っている状況であったので、医師のキャリアという観点で後ろめたさを感じていました。実は「JMDC」に売却したら、消化器内科医で専門医を取ろうと思っていたんです。

Dr.心拍:周囲の環境やご自身のキャリアの進捗が影響していたのですね。

吉永先生:そうですね。意識的に上場ではなさそうだと思ってから、具体的に売却を考えるようになりました。売却先を自分で探すような形になりました。

Dr.心拍:なるほど。あまり仲介会社を通さず、ご自身で直接企業にアプローチされていたのでしょうか?

吉永先生:はい、そうですね。大体7割の企業は仲介会社が関与するのですが、私の場合は興味を持っていた企業に自ら会いに行ったり、直接お付き合いしていた企業と話を進めたりしていました。

Dr.心拍:最終的に「JMDC」に決めた大きな理由は何ですか?

吉永先生:私自身、自由な時間で自由にやりたいタイプなので、それを尊重してくれそうだったというのが大きな理由です。当時の社長、松島さんともはなしをして、JMDCから多くの支援を受けた後も自由にやれそうと感じたことが一番大きかったです。

Dr.心拍:なるほど、その柔軟な環境は大変重要ですね。ありがとうございます。

Flixyは、ジョインしてから新規で立ち上がったんでしょうか、それともFlixyがあったところに入ったんでしょうか?

吉永先生:実は、学生の時のお薬サービスは「Flixy」という名前で、会社名も「Flixy」でした。その薬サービスはちょっとうまくいかなかったので辞めて、社名だけ残っていて、次のサービスが「メルプ」だったんです。

今はJMDCのグループ会社の「HERO innovation」という、主に医療機関向けのホームページを制作している会社なのですが、メルプのサービスはそこの会社の一部になっていますす。Flixy社自体は今はありません。

Dr.心拍:なるほど、Flixyは当時、「イシヤク」という医師向け薬剤比較アプリも開発されていましたよね?

吉永先生:そうですね。Flixy社の一つとして、もともとあった「メルプ」とは別に新規事業として、2022年にイシヤクというサービスを立ち上げました。私はやっぱり飽き性だったので、また次もやりたいということで作りましたね。

Dr.心拍:その後、Antaaとの合併があったと思いますが、何か想いはあったんですか?

吉永先生:FlixyがJMDCにジョインしてから、2年ぐらい後に「Antaa」がJMDCに入ってきました。代表の中山さんは、私が「メルプ」を起業したときからの知り合いで、中高の先輩でもあります。JMDCに入る前から情報交換をしていたので、打ち合わせを週に一回ぐらいしていたんです。それで、立ち上げたイシヤクが、医師プラットフォームという観点では、Antaaと似た領域になりますので、一緒にやった方が相乗効果が生まれるのではと思い、一緒になりました。合併してもう一年ぐらいになります。

Dr.心拍:最近、その合併を経てどうですか?

吉永先生:そうですね、「Antaa」の方がイシヤクよりずっと前に立ち上がっているサービスで、医師会員数も多いので、そのメリットを実感しています。社員も15人ぐらいで、イシヤクの時よりは多いですね。イシヤクでゼロイチでやってきた時とは違う感じですが、楽しくやっています。

Dr.心拍:現在はプロダクトの方の責任者としてやっているということですね?

吉永先生:そうですね。ですので、今は、Antaaと猫型ロボットとメルプと主に3つをやっている感じですね。

Dr.心拍:ご自身の仕事の時間配分はどれぐらいの割合を占めていますか?

吉永先生:Antaaが5で、猫型ロボットが4、メルプが1ぐらいですかね。

Dr.心拍:猫型ロボットもそれなりに割合が多いんですね。

吉永先生:そうですね。ハードウェアでまだゼロイチフェーズなのと、人数が少ない分、やることが多いですね。

Dr.心拍:新しい研究を始めるとなるとまた時間配分が難しいですね。

吉永先生:そうですね、時間の割り振りをどうしようかなと考えています。

Dr.心拍:時間配分に関しても、自由にやらせてもらえる感じですか?

吉永先生:そうですね、結果を出せばいいかなと個人的には思ってはいるのですが。。。頑張ります!

読者へのメッセージ

Dr.心拍:今日は多くのことをお聞かせいただきありがとうございます。

では、最後に、読んでいる方へのメッセージをお願いします。

吉永先生:起業したい人は、一度はチャレンジした方がいいかなと思います。自分が向いているかどうかを含めて、やっぱりやらない後悔よりやった後悔の方が良いです。受験勉強と同じで、一回心の底でやりたいと思っていることがあれば、起業でも副業(複業)でも、一度チャレンジした方がすっきりするんじゃないかと思います。

特に、結婚したり子供ができたりすると、なかなか足を踏み出せないこともあると思いますし、起業に関しては、ノウハウや経験がないとできないのではないかと思う方もいると思います。私自身、MBAには行っていませんし、プログラミングもスクールに通ったわけではなく独学で勉強して、その後は、エンジニアの方とペアプログラミングで教えてもらったりして学んでいきました。何かを身につけないと起業できないという固定観念をあまり考えずに、やってみるのもアリだと思います。自分が100パーセントできる必要はないですし、やりながら困ったら助けを求めるのも良いと思いますので、周りの助けを借りながら進んでいければ良いのではと思います。

Dr.心拍:ありがとうございました。非常に励みになるコメントでした。ありがとうございました。

吉永先生:ありがとうございます。

今回は吉永先生と言えばゼロイチと名前が挙がるほど、新しいサービス、プロダクトを創り続ける吉永先生を掘り下げてお話を聞かせていただきました。今後も様々なCXOを掘り下げていこうと思っていますので楽しみにしていてください。

※この記事は吉永先生が開発した「インタビューAI」をもとに記事化しています。

1時間の音声を15秒で文字起こしして、かつ、自然なインタビュー形式に自動変換する「インタビューAI」を個人開発してリリースしました。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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