腸内細菌叢は子どもの認知機能にどこまで関連しているのか

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腸内細菌叢は子どもの認知機能にどこまで関連しているのか | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏が、医療DXに関わるニュースや論文に率直にコメントします。

目次

対象のニュース

腸内細菌叢の多様性が「健常児の認知機能」を予測する

米ウェルズリー大学などの研究チームは、「腸内細菌叢の違いが、健常児の認知機能全般や脳構造と関連していること」を明らかにした。研究は、Science Advancesに発表されたもので、米国立衛生研究所の資金提供によるECHO(Environmental Influences on Child Health Outcome)プログラムの一環となる。(後略)

このニュースに着目した理由

ヘルスケア事業でも時折見かけるようになった「腸内細菌」。しかし正直、「腸内細菌を調べてがんの早期発見」「腸内細菌を増やして健康に」のような、エビデンスの不明なちょっと怪しい事業も多く、「一般消費者を不安にさせるだけではないのか?」という疑問や憤りを感じることもあった。しかし今回の記事や論文を見て、このようなアカデミック領域の報告もあるのだと感じたため着目した。根拠の不十分な製品を販売している企業には警鐘を鳴らしたい一方で誠実に取り組んでいる研究については日の目を浴びてほしいと感じている。

私の見解

私が大学院時代に基礎研究を行っていた教室でも腸内細菌叢について研究している人がいた。しかし、私の専門領域である呼吸器領域では、ある細菌の遺伝子が存在することと、ある疾患にかかることとの因果関係を証明することは非常に難しいと感じていた。

とはいえ、今回の脳神経領域における腸内細菌叢の報告では、特定の微生物がより高い認知機能と、また別の微生物では認知スコアの低い子どもにより多くみられており、子どもの神経発達の解明の一助になればと思う。

日常診療への生かし方

これまでも自閉症やうつ病、アルツハイマー病などの発症と腸内微生物との間に関連があることが報告されている[1]。一方で正常な認知の発達における腸内細菌叢についての情報が不足していた。子どもの脳が生後数年で著しい発達を遂げるという背景から、生後40日から10歳までの子どもをエントリーして検索を行っている。すぐにこれをもって何かを言うのは困難であるが、今後、正常な認知の発達と腸内細菌叢との関連が明らかとなり、より詳細な研究に繋がることを期待したい。

参考文献

[1]Gut-resident microorganisms and their genes are associated with cognition and neuroanatomy in children | Science Advances

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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