臨床医の視点から~Healthtech/SUMに参加してみて

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臨床医の視点から~Healthtech/SUMに参加してみて~―Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(154) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、Dr.心拍が国内最大級のヘルステック・カンファレンスとも言える「Healthtech/SUM」に実際に会場参加して感じたことをレポートいたします[1]。今回のHealthtech/SUMは、「テクノロジーはヘルスケアを革新し得るか」というタイトルで行われました。

Healthtech/SUMは、医療・ヘルスケア分野における最新テクノロジー(ヘルステック)とそれを活用した先進事例を紹介するグローバルカンファレンスです。世界的に医療・ヘルスケア領域のデジタル化が進む中、日本におけるヘルステックの成長を促進するため、国内外におけるヘルステックの最先端の知見が集まりイノベーションを発信する機会を提供してくれています。

そもそも、このイベントは、2015年よりメドピア社が「Health2.0 Asia-Japan」という名称で日本のヘルステック領域におけるエコシステムの循環を目的に、国内最大級のヘルステック・カンファレンスを運営してきたという歴史があります。それが徐々に進化し、2020年からはHealthtech/SUMという名前で日本経済新聞社とメドピア社の共同開催という形で行われています。

目次

日本・世界のヘルステック動向~市場の激流はどこへ向かうか

今回のHealthtech/SUMでは、ヘルスケアやデジタルヘルス分野でアナリストや戦略家として活躍するマシュー・ホルト氏から衝撃的な話が伝えられました。デジタルヘルス株は2022年に大幅下落し、2023年にはさらに下がった。そしていまだ回復の見通しは立っていないというのです。それを次のようにサマライズしています。

「パーティーはもう終わってしまい、辛い二日酔いが続く」。

ホルト氏は、AI問診やAI診断などのサービスを提供していたイギリスのバビロンヘルスの倒産などを例に挙げていました。

とはいえ、電子健康データを利用したり、臨床試験を強化するためにデータを使用したりできるようになるという、新しいテクノロジーが使用されそうな明るい兆しもあると締めくくっています。

個人的には海外のヘルステックの話が出るたびに、海外で承認されていても国内ではなかなかハードルが高くてついつい遠くから眺めているような気持ちになります。日本からも世界をリードするヘルステック企業がどんどん出てくるとうれしいです。デジタルヘルス関連株をいつ買うべきかという課題も生まれました(笑)。

デジタルヘルスにおける国内動向、3要点

メドピアの石見陽社⻑からは、国内の動向について3つのお話がありました。

1つ目は医療現場へのAIテクノロジー実装についてです。たとえばサマリー・診断書などの作成や問診支援、画像診断支援、診療間のフォローアップ支援、論文検索支援や疫学研究支援などが挙げられます。これらのテクノロジーの実装については、まだまだ周囲で使っているところを見かけるという段階にはありません。しかし、今後数年間で一気に実装が進めば、医師のタスクシフトが進み、医師が本当にやらなければならない業務に注力できるのではないかと期待できます。

たとえば、私たちは日々カルテの記載を行っているわけですから、そこから自動的にサマリーが抽出されるといいですよね。また臨床的な視点としては、専門的知見を持っていても論文検索にかけられる時間がない、疫学研究の経験がないなどの理由で論文執筆を諦めてしまうということもあるでしょう。この論文検索や疫学研究の支援をAIが行ってくれるようになるかもしれません。

2つ目はヘルスケア関連政策の実行により、医師の働き方改革やオンライン資格確認などの医療DXが推進フェーズに移行してきているというお話です。オンライン資格確認については「そんなに普及しないのでは」と個人的には懐疑的でしたが、蓋を開けてみれば義務化対象施設においては9割程度が既に運用開始しているとのことです。国がやるぞと言えば意外としっかり普及するものだなと感じました[2]。

3つ目は資本業務提携の興隆です。第一生命がベネフィット・ワンに買収提案してエムスリーに対抗という日本経済新聞の記事が紹介されました[3]。大企業が相手先の同意を得ないまま対抗的に買収提案する手法を使って企業価値の向上に取り組むのは異例ですが、時代の流れが変わってきているのかもしれません。

多様化する医師キャリアの先駆者たち

Healthtech/SUMでは、「多様化する医師キャリアの先駆者たち」という企画もありました。こちらは、これまで9回行われてきたこのイベントの中で、第1回から毎回実施されているそうです。石見社長からもこの企画への熱い想いが語られました。「医療は医師だけでは成り立たない。しかし、チームの中で医師がトップであることからも、医師の新しいキャリアの一つとして起業などすることで社会へ貢献できる世界観があるのではないか」。自分も医師を十数年やってきましたが、3年ほど前から発信活動やヘルスケアビジネスに取り組んだことで初めて医師のキャリアの多様性に気づかされました。

登壇したのは、医学生時より起業しているMIRAERA株式会社の代表取締役社長の前田美里さん、血管内治療科の臨床医でありながら宇宙医療顧問となった瀧澤玲央先生、予防医学の普及と医療アクセシビリティ向上を目指す株式会社ウェルネス代表取締役医師の中田航太郎先生です。医師免許を取得してからもうだいぶ時が過ぎてしまった自分ですが、それぞれの起業についてのお話を聞くと、新しいチャレンジをするのに遅くはないのだなと勇気づけられました。

起業のときにどうやってメンターを探したのかということについては、石見社長からは「同じ業界にはメンターがいなかったので他分野であるIT業界からロールモデルを探して食いついていった」という話もありました。今では少しずつ起業する医師が増えてきているので恵まれていると感じています。

今回はヘルスケアイベントに参加した臨床医のレポートをお届けしました。普段から学会には参加しているものの、このHealthtech/SUMは登壇者も聴衆も医師に限らず幅広い方が参加していたため、懇親会を含めて非常に刺激的な良い機会となりました。

これまで、ヘルスケア領域を医療従事者からの視点でしか捉えていませんでしたが、ビジネス視点や顧客視点で考えてみるのも今後の医療にとって重要だと感じました。今回は、2日目のピッチコンテストファイナルに参加できませんでしたが、来年は参加してみたいと思います。

【参考】
[1]Healthtech/SUM 2023 (healthtechsum.jp)
[2]厚生労働省 オンライン資格確認等について
[3] 第一生命、ベネフィット・ワンに買収提案 エムスリーに対抗TOB – 日本経済新聞 (nikkei.com)

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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