さて、今回は初めて参加したITヘルスケア学会年次学術大会レポートをお届けします。2024年8月29日~31日、沖縄県名護市の名桜大学で行われ、また日本デジタルパソロジー・AI研究会総会との同時開催となりました。
名桜大学から名護市中心部を望む:学会HPより引用 https://17th.ithc.mobi/
メインテーマは「デジタルヘルス・医療DXによるスマート社会の実現」です。以前から興味はあったものの参加できずにいた学会ですが、沖縄開催ということもあって参加モチベーションが上がったことは否めません。
参加直前になって、台風10号の接近とそれによる天候不安などがありましたが、なんとか無事遅延はあったもののほぼ予定通り会場入りすることができました。実は知人医師と一緒に参加予定でしたが飛行機が飛ばずたった一人での参加に…。
シンポジウム1「ヘルスケアのIT化の日米比較~日米医学医療交流財団の取り組み」
マウントサイナイ医科大学精神科助教授、精神科救急部指導医、個人開業を行い、また、インターネットのビデオ通話を用いた遠隔診療も提供しているという松木先生からの一言。
「紙の処方箋なんかない」
確かに日本では病院DX、医療DXなどと叫ばれているが現実は効率化できているとは思えない。そもそも処方箋が紙でハンコを押す文化、ここから返る必要があるとなんだか一言で腑に落ちました。
シンポジウム3「IT業界は本当に医療機関を知っていますか? ~病院経営者のホンネとは~」
座長はこの10年間で3000人を取材してきたという株式会社メディカルノート代表取締役の井上先生。
浦添総合病院理事兼病院長補佐兼看護師確保・定着促進室長の伊藤さんは看護師の実務経験を活かした業務効率化を行っています。具体的には昨今どこも不足している看護師業務の負担軽減をはかるべく、患者の食事量の記載を他職種にタスクシフトしました。
元々博報堂で10年勤務してからの病院経営に携わるおもと会グループ理事長代行の石井さんは、「ICTで一番貢献したのはダイソンのドライヤー」で入浴業務時間を大幅削減できたとのことです。ICTというと何か特別なことをイメージするかもしれませんが、身近なところにその解決策があるのかもしれませんというようなお話で共感しました。
何か特別なことをするのではなく、身近なところからICTを活用して業務効率化が出来ればよいですよね。
ランチョンセミナー「デジタルクローンAI技術を活用した説明動画作成・視聴システムの開発と導入効果」
演者である渡邊 祐介先生(北海道大学病院 医療・ヘルスサイエンス研究開発機構 臨床研究開発センター長補佐・特任講師/藤田医科大学 先端ロボット・内視鏡手術学講座 准教授)の、デジタルクローン技術を活用して動画生成、説明業務などを支援するアプリケーションのお話でした。
北海道大学病院とTOPPAN株式会社との産学連携により、医師の働き方改革の推進と患者への説明内容の理解度向上を目的として「DICTOR」が共同開発されています。現在もさらなる機能の向上を目指して取り組まれているとのことで非常に楽しみです。
患者への説明業務に関するサービスとしてはContrea 株式会社が提供するMediOSがある。DICTORではデジタルクローンAIを活用している点がひとつの差別化ポイントとなります。
シンポジウム8「顔認識技術を用いた医療・健康分野への応用に関する最新研究動向」
このセッションは、顔認証技術を用いたテーマで話し合われました。実は前日の夜に、
メディカルノートの井上先生にお声掛けいただいた懇親会で、座長を務められたNECの今岡先生、資生堂の江連先生、筑波大学医学医療系臨床教授の鶴嶋先生とお話させていただく機会があり、前日の夜に既に濃厚なディスカッションを拝見していたので楽しみに拝聴しました。
江連先生からは誰もが気になる顔のエイジングケア、鶴嶋先生からは顔画像からAI処理によって体液の変動を推測する技術について、今岡先生から顔認証AIを総括していただき、マスクやアイマスクをしていても顔認証可能というお話は衝撃でした。
個人的にはこれらのAI技術を応用して、例えば小児救急のトリアージなどでうまく役立てられる未来を期待したいなと思いました。
懇親会、新しい出会い
初日の夜には井上先生にお誘いいただいた懇親会で、演者の先生やヘルスケア領域のエキスパートとお話する機会をいただき、deepなスナックからシメの沖縄そばまで満喫しました。そして2日目の夜には学会公式の懇親会に参加し、多くの方とお話させていただきました。
普段自分の専門領域で参加する学会と違って、職種、領域が広い方々との繋がりができ良い機会となりました。たまたまホテルが一緒だった学会運営の皆様に声をかけていただき、学会の大会長を務められました名桜大学人間健康学部健康情報学科の木暮祐一教授をはじめとした運営メンバーの方とワインバーで学会最後の夜をご一緒させていただきました。
最後に
天候不安もあり、また初めての参加となったITヘルスケア学会年次学術大会ですが、総じて有意義な機会となりました。医師の働き方改革、DXが叫ばれる中、現場はなかなか新しいことにチャレンジしづらいと感じることが多いです。しかしながら、今回の学会を通して常により良い医療を提供するため、そのために現場をより良いものにしていくためにITを上手に活用していくことが大切だとあらためて感じました。自身も医師として何か新しいことにチャレンジしていけると良いなと思っています。