心不全スクリーニングが可能な心電図対応聴診器とそのデータを分析するAI

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心不全スクリーニングが可能な心電図対応聴診器とそのデータを分析するAI:Cadetto.jp (nikkeibp.co.jp)

今回は、心不全スクリーニング可能なスマート聴診器と人工知能(AI)の開発に関する研究論文を紹介します1)

日本では高齢化が進んでおり、それに伴い心不全患者が増加しています。心不全は治癒が難しい疾患であり、薬物療法や心臓リハビリテーションを駆使して病状をコントロールする必要がありますが、心臓リハビリテーションの実施は限定的であり、改善が求められています。

一方、英国でも心不全は約2%の人口に影響を及ぼし、国民保険サービスの予算の4%を占める重要な問題です。心不全の早期発見と進行の抑制のため、心不全スクリーニングの重要性が指摘されています。

これまでの研究では、米国メイヨークリニックでAIを用いた心電図(12誘導)が心不全のスクリーニングに有効であることが報告されています。最近では、より身近で費用対効果の高い検査手法として心電図が注目されています。特に、左室駆出率(LVEF)が40%以下に低下した心不全患者が、かかりつけ医の段階で症状を示しているにもかかわらず、診断が遅れるケースが多いため、簡便な診断法の開発が急務です。

最近の研究では、単一リード心電図を用いたAIによるLVEF 40%以下の心不全スクリーニングが行われています。この研究では、心電図対応聴診器「Eko DUO」が使用され、心電図データを15秒間の聴診で取得します。1050人の患者を対象に、Eko DUOで得られたデータを用いてLVEF 40%以下の心不全患者をスクリーニングするAIを開発し、その結果を心エコーと比較しました。

このAIは、AUROC(AUCと同義)が0.91、感度91.9%、特異度80.2%という高い性能を示しました。聴診器を用いて短時間で心電図を取得し、心不全のスクリーニングを行える点が注目されています。しかし、実際の診療では心エコーによる評価が推奨されるものの、社会全体の公衆衛生を考慮すると、正確性よりも費用対効果が重視されることもあります。

個人的には、心疾患と診断されたことがない無症状例に対するスクリーニング方法としてこのAIを用いるのであれば良い使い方なのではないかと思います。

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文献

1)Point-of-care screening for heart failure with reduced ejection fraction using artificial intelligence during ECG-enabled stethoscope examination in London, UK: a prospective, observational, multicentre study – The Lancet Digital Health
https://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(21)00256-9/fulltext#%20

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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