ポータブルX線デバイスと遠隔読影が変革する在宅診療の形

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ポータブルX線デバイスと遠隔読影が変革する在宅診療の形―Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(20) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

10月29日、世界のSDGsの課題解決を支援する団体であるSDGs CHALLENGEが主催したセミナー「AIを活用した新技術で世界三大感染症結核に挑む!」が開催されました[1]。今回は、感染症治療を専門とする私がこのセミナーを拝聴して感じたことを記したいと思います。

目次

いまだ日本でも罹患する人が多く、診断が難しい肺結核

世界三大感染症とは、エイズ、マラリア、そして肺結核です。肺結核は途上国の疾患と思われがちですが、日本における2019年の罹患率は人口10万対11.5であり、2019年に新たに結核患者として登録された者の数(新登録結核患者数)は1万4460人にものぼります。減少傾向にあるとはいえ、例年1万人以上が新規結核患者として登録されているのです[2]。

私自身、実際に診療していても、時折、新規の肺結核患者さんと出会うことがあるため、決して過去の病気ではなく重要な疾患のひとつだと実感しています。

現在では標準治療が確立しているため、適切な診断のもとに治療が完遂できれば決して予後の悪い疾患ではありません。しかしながら、その診断が決して簡単ではないのが結核という疾患の難しさでもあります。

それでは、結核の診断はどのように行うのでしょうか。基本的には痰や胃液などから結核菌が検出されると結核だと診断しています。きっかけとしては、「健診で胸部X線を撮影したら、空洞のような影がみつかった」あるいは「つぶつぶした粒状影が散在していた」などあらかじめ結核が疑われ、さらに検査を行って診断されたケースもあれば、数カ月以上前から咳が出たりだるかったりして、体重も落ちてきたうえ、痰に血が混じっていたので胸部X線を撮ったら「すぐに病院に行くように」と言われるケースもあります。また肺炎や肺がんを疑われて紹介された患者さんの画像を専門医が見ると「これは結核かもしれないし、感染性があるかもしれない」といわれて隔離されるケースもあります。

このように疑って初めて詳しく検査を行うのであって、最初の段階では非専門医の医師が結核だと診断を下すのは難しいという特徴があります。複数回の痰の検査でも結核菌が検出されず、胃液検査や気管支鏡検査を行ってやっと診断がつくということも珍しくないのです。

ポータブルX線撮影デバイスで遠隔医療が可能に

さて、今回のセミナーの内容は「stop TB(結核)」の世界的な貢献のために、富士フイルム社の開発したポータブルX線撮影デバイスおよびAIによる診断支援を用い、肺結核のスクリーニングを行うというプロジェクトがWHOに認められたという話でした。

このポータブルデバイスは、海外の発展途上国にも持っていけるほど携帯しやすく、放射線技師のようなエキスパートでなくとも撮影可能なこと、そしてAI技術の支援を得て肺結核の診断を行えるという点で有用だと感じました。

実際にはこのデバイスで撮影された画像を遠隔で医師が読影することも可能であり、医療リソースの整っていない海外や、国内でも専門医不在地域における結核健診時にこれらのデバイスを用いて遠隔読影を行うという使い方も有効だと思われます。

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そもそも「胸部X線検査」と一言で言っても、病院では放射線技師が撮影する一方、クリニックでは医師が撮影することが多く、また、その撮影技術やデバイスによって画質も変わってくるため、読影結果にも影響しますよね。しかし、このデバイスなら特別なスタッフでなくとも扱えますし、撮影のバラツキもある程度AIが補正したかたちで読影につなげられる点は魅力的です。

私自身、地域の肺がん検診の二次読影をすることがありますが、このAI技術で一次読影を行い、別途二次読影として専門医が読影するようなシステムが構築できるのであれば国内でも積極的に導入していけるのではと思います。

また、以前m3.comでも取り上げたポータブルエコーのように、今後、在宅でも「ポータブルX線撮影」ができるようになるかもしれません[3]。以前、往診医をしている先輩に会ったときに「ポータブルエコーは便利で良く使うよ」という話を聞きました。やはり安価で便利、携帯性に優れているようです。

また、常勤で往診医をしている友人医師にポータブルX線を使いたいかどうか聞いてみたところ、「ポータブルエコーは使っていて便利だけど、ポータブルX線って大きくて持ち運びが大変そうなので使ったことはないね」とのことでした。

今回のセミナーで話題となったポータブルデバイスは海外にも持っていけるということで携帯性には優れているようです。それを伝えると彼は、「在宅診療を提供するような高齢者は転倒することが結構多いので、ポータブルX線撮影を用いて骨折がその場でわかると便利かもね」とコメントしていました。

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確かに高齢者で転倒して骨折が疑われ、夜間に救急搬送されるというケースが結構あるので、こういったデバイスの普及により救急医療の負荷が軽減できるようになるかもしれません。

今回は肺結核の診断のためのポータブルX線デバイスとAI診断に関するセミナーから、デジタルヘルス連載記事を行っている呼坂心が日常診療と比較して感じたことをお伝えしました。今後ポータブルデバイスの発展・普及により未来の医療のかたちが変わるかもしれませんね。

【参考】
[1] AIを活用した新技術で世界三大感染症結核に挑む!|SDGsCHALLENGE OpenTalk
[2]厚生労働省  2019年 結核登録者情報調査年報集計結果について
[3] ポケットエコーは「在宅医療の新しい聴診器」となる――「Vscan Air」販売発表会

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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