医師目線で語る「指輪型スリープテック」デバイスの課題とは

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医師目線で語る「指輪型スリープテック」デバイスの課題とは――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(87) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、睡眠時無呼吸症候群の診療を行う呼坂心が、実際に身をもって体験したスリープテックについてご紹介します。スリープテックの市場規模は世界市場においては2020年には約128億ドルに至り、そして2030年には約500億ドルまで拡大すると予測されています [1]。

目次

NTT西日本傘下のNTTパラヴィータがスリープテックを開発

NTTパラヴィータはNTT西日本とパラマウントベッドが共同出資して2021年に設立された合弁企業です[2]。シート型センサーを寝具の下に敷くことで、センサーが感知した体の動きなどから在床や離床を判断することができます。病院や介護施設などでは、徘徊や転倒防止のためにベッド脇にマットを敷いて判断することがありますが、ベッドに敷くことで早期に発見できそうです。また、体の動きだけでなく、睡眠や覚醒の判断、心拍数や呼吸数なども測定してくれます。

これまでも寝具と一体化したセンサーが開発、販売されていましたがどうしても寝具と一体化していると高額となってしまい、使用用途も限定される印象でした。しかし、このシート型であれば、利用の幅が広がるのではないかと期待しています。

また、NTTパラヴィータは企業を通して従業員向けに、自治体を通して高齢者向けに、調剤薬局を通して個人向けにそれぞれ睡眠状況の測定と改善アドバイスを提供しています。

スリープテックで話題のOura Ringを使ってみて

スリープテックの製品のなかでも身近なものとしてはApple Watchが挙げられますが、個人的にはリング型のスリープテック製品であるOura Ringの睡眠分析が以前から気になっていました。そこで、購入して自身で試してみました。1カ月半程度使用してみて、その特徴と課題感を医師の立場からコメントしてみようと思います。

Oura Ringはそのリングに心拍・温度・加速度センサーを組み込んでおり、このセンサーの計測および分析により、睡眠、アクティビティ、コンディションをスコア化して教えてくれます[3]。

例えば、就寝前にリングを装着して寝れば、起床時に睡眠時間や睡眠効率、心拍数、平均SpO2、レム睡眠、深い睡眠、入眠潜時などをスマホで確認する事ができます。また安眠度や睡眠のタイミングが最適かどうか、注意が必要かなども教えてくれます。そして、睡眠スコアとして数値化されます。たとえば、睡眠不足が続いていた場合は、アプリから「今日は早めに休みましょう」というような通知がなされます。Oura Ringを使用しているメンバーの88%が使用前後でその睡眠の質が向上したということも報告されています[3]。

最近ではコロナ禍のために外出が減ってしまい、アクティビティの低下も気になっていました。しかし、Oura Ringのアプリには「毎日〇〇kcal消費しましょう」といった目標が表示され、またその到達具合も数値化されていくので、以前より意識的にアクティビティを行うようになりました。

このようなウェアラブルデバイスを用いることでより健康維持に意識が向き、結果として睡眠やアクティビティ、コンディションの向上に寄与してくれるということで個人的には満足しています。毎日スコアを見ることで、「スコアを改善させたい、そのために質の高い睡眠を取り、アクティビティをしよう」と思うようになりました。

Oura Ringに感じる課題点

一方で、医師の目線からみるといくつか課題も見受けられます。例えば、Oura Ringは夜間のSpO2を測定してくれますが、その値はあくまで平均です。睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、睡眠時に無呼吸が起こることで結果的にSpO2が低下しますが、それを検知してくれるということはありません。実際に睡眠時無呼吸症候群の患者さんに装着してもらって試したわけではありませんが、リアルタイムのSpO2を測定したり、どの程度SpO2に変動があるのかを示したりというような詳細なデータまではわからないのです。

一般の方が使用するデバイスにどこまで精密な機能を組み込むかはさておき、せっかくのスリープテックですから、リアルタイムでのSpO2やどの程度SpO2に変動があるのか、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が疑われるのかなどがわかると、睡眠の質の向上にもっと寄与することができるのではないかと思います。

そしてこれは課題というか要望でもありますが、有料でもいいので、得られたデータに対する介入やコーチングをもう少し掘り下げて行ってくれるサービスがあればいいのにと思います。ちょっとしたデバイスとしては、いろんなスコアが計測できて面白いとは思うのですが、必ずしも使用者の大多数にとっては行動変容に繋がらない可能性があります。生活の中でスリープテックを役立て、そして日々の生活に反映していくためには、一般的な情報だけでなく、その個人個人に合ったコーチングやあるいは健康・医療相談などのサービスが必要になってくるのかもしれません。

今回はスリープテックを2つご紹介しました。Apple Watchも先日新機種がリリースされたため、それも予約購入しています。Oura Ringと併せてその使用感なども試してみたいと思います。

【参考】
[1]Sleep Tech Devices Market Research Report
[2]NTTパラヴィータ
[3]oura

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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