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コロナ禍で困難を極める「介護リスクの予測」――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(41) | m3.com AI Lab
呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。
今回は、AIを用いた介護リスク予測に関する国内企業における研究をご紹介します。
内閣府によると、総人口において65歳以上の割合が28.4%になり、超高齢社会を迎えた日本では、介護認定者数は約690万人(21年間で約3倍)、介護給付費は約12兆8000億円(21年間で約4倍)と急増しており、社会保障費の増大や介護保険財政の圧迫、介護職の負担の高まりが自治体の課題となっています[1, 2]。
高齢化社会において事前に介護者数の予測などができればよいのですが、そもそも子ども夫婦と同居しているケースもそれほど多くないため、血縁関係者であっても把握できていないことがあります。
たとえば、救急搬送されてきた患者さんの病状や治療方針に関して別居している子どもに連絡すると、子ども側がそもそも持病を把握しておらず、親がどの程度自立した生活を送っていたのかもわからないというケースには、実に頻繁に遭遇します。そんな中でも、こちらから急変の可能性があるなどのシビアな話をせざるを得ません。すると、子ども側としては親の病状への理解がなかなかうまくいかずに困惑することも多いのです。
特にコロナ禍においては、疾患を問わず面会が難しい状況のため、家族が病状を直接見て、「いまこんな状況だから歩いたりご飯を食べたりできないので退院できない」という実感が湧きにくいという弊害があります。「リハビリ目的で回復期リハビリテーション病棟や療養型病院に転院が必要だ」ということで家族に電話をすると、家族からは「これまで元気に歩いてご飯も食べられていたのに!」とやや食いつかれることもあります。高齢者の救急疾患に伴う入院による廃用症候群は、私たち医療者も常に課題だと感じながら向き合っていますが、それでも「そもそも介護必要度やリスクなどがきちんと評価されていたらいいのに」と感じることがあります。
患者の再入院リスクの予測値とその根拠データを提示
このような背景の中、神戸大学の研究チームと日立製作所は神戸市が構築したヘルスケアデータ連携システムを活用した取り組みとして、神戸市民の健康・医療情報を対象に、AI技術による要介護リスクの解析研究を行うことを発表しました[3]。
今回の研究の解析対象は65歳以上の神戸市民38万人の医療情報、介護情報、健診情報などを連結した継時的データセットです。これをAIの学習データとして用いて、一人ひとりに対する要介護リスクを予測するモデルを構築しました。継時的なビッグデータ解析により、個人ごとに異なる介護リスク要因の特定に向けて予測性能を検証する研究が、政令指定都市規模の大規模コホートで実施されるのは国内初ということもあり、注目に値します。
最近レセプトデータなどのビッグデータを用いた研究も行われるようになってきましたが、この研究の解析データにより、少しでも将来の介護負担が軽減されるといいなあと思います。
出典:https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/01/0121.pdf
説明可能なAIを活用した介護予防ソフトウェアの販売を開始
また、2022年1月に富士通Japanは、住民の健康寿命延伸にむけた自治体の介護予防施策を強力に支援するため、富士通が研究開発した説明可能なAI技術「Wide Learning」を活用し、将来的な介護リスク度合いの算出を行う「FUJITSU 公共ソリューション MCWEL介護保険V2 介護予防AIスクリーニングオプション」(以下、「介護予防AIスクリーニング」)を開発し、販売開始すると発表しました[4]。AIと介護保険システムを活用して要介護リスクの予測を行う製品は国内初となります。
この介護予防AIスクリーニングでは、介護保険システム「MCWEL介護保険V2」で管理する住民の介護認定情報や過去の介護サービス受給履歴などの項目をAIが学習し、将来的に要介護となる可能性が高い特徴の組み合わせと影響度を可視化することができます。
これにより、自治体職員は要介護となりうる傾向を把握でき、将来的な社会保障費の抑制につながる施策の立案や介護予防に関する有効な情報を住民に提供可能になります。そうすれば住民の介護予防意識の向上がのぞめ、将来的な健康寿命の延伸も期待できることでしょう。
出典:https://www.fujitsu.com/jp/group/fjj/about/resources/news/press-releases/2022/0125.html#footnote3
医療現場にいる私たちは介護と切っても切り離せないと実感しています。「病気は治療でよくなったけれど、ADLが低下してしまって自宅へ帰れるか心配」というようなときには、院内の退院支援スタッフに相談して、家族環境やケアマネージャーさんがいるかどうか、情報収集をしてもらいます。どの程度家族で介護サポートができるか、新たに介護サービスがどの程度必要かなどをカンファレンスで検討し、退院後も生活維持が可能かどうか議論します。すると、患者さんは実際にさまざまな環境で生活していることを肌で感じますし、ケアマネージャーさんも人によって知識や経験に差があることがわかります。
今回ご紹介した介護予防AIをうまく利用することで、まずは少しでも介護の現場のサポートになればと願っています。また、このような企業と自治体の取り組みを通して、多くの人が介護についての関心を高めてほしいとも思います。医師としてもなかなか介護へ目を向けて積極的にかかわっている方は多くないと思いますが、介護は医療と密接に結びついていますから、ぜひ退院後の生活を考慮した診療の一助として知っていただきたいと思います。
【参考】
[1] 介護保険事業状況報告 月報
[2] 財務省 社会保障等
[3] 「説明可能なAI」を用いた神戸市民38万人の要介護リスク予測研究、神戸大学と日立が開始
[4] 説明可能なAIを活用した介護予防ソフトウェアの販売を開始 : 富士通Japan株式会社 (fujitsu.com)
【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。