ICI投与前に効き目を予測、AIで変わる免疫療法とは

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ICI投与前に効き目を予測、AIで変わる免疫療法とは―Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(14) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

現在、がん免疫療法の進歩はすさまじいものがあり、さまざまな治療法が開発されています。今回はがん免疫療法に関連したAIについていくつかご紹介します。

目次

ネオアンチゲンとT細胞受容体の結合予測をAIで

皆さんは「ネオアンチゲン」という言葉を聞いたことがありますか? ネオアンチゲンとはがん細胞表面に産生されるペプチドのことで、抗原として免疫反応を起こします。T細胞がそのネオアンチゲンを認識できるとがん細胞を攻撃できますが、ネオアンチゲンを認識できないとがんの成長を許してしまいます。

T細胞に認識されるネオアンチゲンを特定できれば、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などに代表される「がん免疫療法」の開発や治療反応の予測に役立つかもしれません。しかし、何万種類もあるネオアンチゲンからT細胞が反応を起こすものを予測することは、時間・技術・コストの観点から容易ではありません。

このような背景から、米国のUT Southwestern Medical Center(テキサス大サウスウェスタン医学センター)では「どのネオアンチゲンがT細胞に認識されるかAIによって特定する研究」を行い、その成果が学術誌 『Nature Machine Intelligence』に発表されました[1][2]。

pMTnet(pMHC–TCR binding prediction network, pMHC–TCR結合予測ネットワーク)と名付けられた深層学習ベースのアルゴリズムは、ネオアンチゲン・主要組織適合遺伝子複合体(MHC)・T細胞受容体という3つの構成要素が結合するかどうかの組み合わせデータを学習し、免疫反応を予測するために作られました。さらに、どのような患者がICIへの治療反応がよく、全生存率が高いかも予測します。

研究グループは「ネオアンチゲンとT細胞受容体の結合を予測することはこれまで非常に困難とされていたが、我々は機械学習によって前進している。この知識はがんと闘うために利用できるかもしれない」と主張しています。がん免疫療法が直面している大きな課題を解決できるのか。pMTnet研究の進展に期待が高まります。

現在、臨床現場では肺がんに対して抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体を免疫療法として使用しています。もちろん、新規の治療薬の開発は行われていますが、今後このような研究が進むことで新規のターゲットが発見され、新薬の開発につながることも期待できるのではないでしょうか。

PET/CT画像から非侵襲的にPD-L1の発現量を測定

進行性非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、PD-L1発現が50%以上の場合にはICIの効果が高いことが予測されています。このとき、多くは肺の生検組織によって発現を測定しています。しかし、組織量が少ないという理由で測定できずに再生検を行うこともあります。生検は患者にとって侵襲性が高いため、生検を行わずに発現を測定できる手法の誕生が望まれていました。

そこで、米国のモフィットがんセンターの研究チームはPET/CT画像からPD-L1の発現状態を識別し、免疫療法に対する肺がん患者の治療反応性を予測する深層学習モデルを開発し、『Journal for ImmunoTherapy of Cancer』に報告しました [3]。

研究グループは、3つの医療機関から計697人のNSCLC患者のPET/CT画像と臨床データを収集し、このアルゴリズムをトレーニングしています。その結果、PD-L1陽性患者と陰性患者をAUC 0.82以上と比較的高精度に識別することができました。アルゴリズムによって導かれたスコアは、全生存期間の予測において、生検による免疫組織学的評価によるものと明らかな差を認めませんでした。

この研究結果は、ICIに反応するかを判断するためだけの生検を回避できる可能性があることを示しました。そして、この研究で行われた手法は非侵襲的評価法として比較的実現可能ではないかと考えられます。

ICI投与前に効き目を予測

ICIは、がん化学療法において急速に普及が進んでいます。進行性NSCLCの治療ではICIの恩恵を受けることができ、長期生存する患者がいます。しかしその一方で、ICI投与により、がんが急速に進行する症例もあることが報告されています。このような患者群をあらかじめ発見できれば、ICIの投与を避けることができます。

そこで、米国のケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームは、NSCLC患者において、免疫療法により病勢が急速に進行する患者群を、AIを使って予測する研究を報告しました[4]。

研究グループは進行性NSCLC患者109名のCT画像を機械学習させることで、急速に病勢悪化してしまう患者群をAUC 0.96の精度で識別できました。全生存期間についても、急速に病勢悪化してしまう患者群は、それ以外の群よりも有意に短い生存期間を示しました。

昨今のがん免疫療法への期待とは裏腹に、がん免疫療法によって急速に進行するという弊害は気がかりです。しかし、今回の研究は、どのような患者が免疫療法を回避すればよいのかがわかる方法を示した可能性があります。

【参考】
[1] がん治療を変革する「ネオアンチゲンの免疫反応予測AI」
[2] Deep learning-based prediction of the T cell receptor–antigen binding specificity
[3] Non-invasive measurement of PD-L1 status and prediction of immunotherapy response using deep learning of PET/CT images
[4] Novel, non-invasive imaging approach to identify patients with advanced non-small cell lung cancer at risk of hyperprogressive disease with immune checkpoint blockade

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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