肺癌のEGFR遺伝子型と治療効果予測を可能にするAI

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肺癌のEGFR遺伝子型と治療効果予測を可能にするAI :Cadetto.jp (nikkeibp.co.jp)

今回は、肺癌の分子標的治療の代表格であるEGFR遺伝子型と治療効果を予測する人工知能(AI)に関する研究論文を紹介します1)

近年の肺癌治療では、化学療法の進歩と共に、多くの分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場しています。特にEGFR遺伝子変異に対する治療薬は話題ですが、EGFR遺伝子変異陽性の肺癌患者には、治療効果が限定的で予後が不良な「uncommon mutation」陽性患者も存在するため、これは大きな課題です。

この論文では、CT画像から肺全体の情報を解析し、EGFR遺伝子型とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療の予後を予測するAIについて報告しています。研究対象は、中国と米国の9つのコホートから集めた肺癌患者1万8232人で、EGFR遺伝子変異とCT画像のデータを用いています。

AIはEGFR遺伝子型とEGFR-TKI投与患者の無増悪生存期間を予測し、その性能をAUC(受信者操作特性曲線)とKaplan-Meier解析で評価しました。AIの予測精度は、6つのコホートでAUCが0.748から0.813に達し、従来の深層学習モデルよりも優れていました。また、臨床因子と組み合わせたAIは、EGFR-TKI治療に対する予後と有意に関連しており、TKI耐性リスクが高いEGFR遺伝子変異患者の特定にも成功しました。

特に興味深いのは、CT画像の解析において、腫瘍領域だけでなく、腫瘍周囲の血管収束や胸膜陥入、腫瘍の浸潤もEGFR遺伝子型の予測に関連していた点です。これらの所見は、肺癌の診断において有効である可能性があります。

この研究のAIは、EGFR遺伝子型を非侵襲的に検出し、TKI耐性リスクが高い患者を特定する手段として有望です。

まだまだ不明なことが多い肺癌ですが、遺伝子型、分子標的治療薬の効果など今後さらに解析が進むことで、治療する前にある程度予後予測ができるようになるとよいですね。

目次

文献

1)Mining whole-lung information by artificial intelligence for predicting EGFR genotype and targeted therapy response in lung cancer: a multicohort study – The Lancet Digital Health
https://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(22)00024-3/fulltext

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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