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「救急車で途中下車、食事会へ」から考えるDXを用いた救急搬送の効率化 | m3.com AI Lab
呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏が、医療DXに関わるニュースや論文に率直にコメントします。
対象のニュース
愛知県江南市にある江南厚生病院の20代女性研修医が、救急車に同乗して別の病院に患者を送った帰りに、友人との食事会に出席するため、本来の帰路を外れて名古屋市中心部の駅付近まで送らせていたことが22日、病院や市消防本部への取材で分かった。研修医は病院の聞き取りに「認識が甘かった」と説明。同本部は「医師の要望によるものだったが、誤った判断だった」としている。(後略)
このニュースに着目した理由
今回のニュースは他院への救急搬送の帰りに、私的な理由で本来救急車で向かう必要のない駅に寄ってもらったということが問題として取り上げられている。救急車での患者転院搬送後の帰路を救急車で病院まで送ってもらうことを経験している医師は少なくないのが実情であろう。しかし、このような現状は「救急搬送の効率化」という観点で望ましくない。
私の見解
私個人はというと、これまで患者の転院搬送の帰りに救急車で自分の勤務する病院に送ってもらった経験が複数回ある。今回の事例で特に問題と感じるのは、私的な理由でわざわざ帰路ではない場所まで送ってもらおうとしたことではないだろうか。
田舎の病院だと、公共交通機関で帰るのが難しい、タクシーを呼ぶにもかなり時間がかかるほど辺鄙な場所である、という状況もあり、帰りに送ってもらうことも止むを得ないという状況があるのも理解してほしい。一方で救急搬送の効率化を考えると、その帰路にまた別の患者を搬送できたかもしれないことを考える必要があり、そのためにはDXを用いた救急搬送の効率化が望まれる。
日常臨床への生かし方
今回のニュースを聞いて、「医者あるある」だなと感じた。しかし、一般の方からの意見は厳しいものが多く、かなり炎上気味である。非医療従事者からの正直な評価を改めて省みる良い機会になった。
医師側の言い訳としては、上記交通機関の問題に加えて、病院側から提示される帰りの交通費のルールが曖昧となっている部分も挙げられる。実際、タクシーチケットなどを持たせて転院搬送する、あるいは転院搬送時には帰りの手配を責任を持って行うなど体制がしっかりしている施設だと、搬送に同乗する立場としても安心する。これを機に施設運営者はこのような背景も知ってもらった上で体制を整えてもらえればと思う。
救急医療DXの実例として、救急医療サービス「Smart119」が、いわゆる「救急のたらい回し」の解決を目指して開発されている。これは、ICTを用いて、「一括受入要請」、「救急隊と医療機関の情報共有」、「スムーズな受入体制の構築」を行い、救急隊の現場活動を支援するシステムである。今後こういったシステムが広く普及することで、より効率的な搬送が行えるようになると良いと考える。
【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。