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COVID-19後の二次性細菌性肺炎、サイトカインストーム仮説で過小評価? | m3.com AI Lab
呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏が、医療DXに関わるニュースや論文に率直にコメントします。
対象のニュース
AI手法が示す「COVID-19の死因を占める二次性細菌性肺炎」
COVID-19の重症患者が死に至る機序として、多臓器不全を引き起こす全身性の強い炎症、いわゆる「サイトカインストーム説(cytokine storm theory)」が仮説の1つにある。しかし、米ノースウェスタン大学の研究チームは、電子カルテデータに機械学習を適用することで、「COVID-19患者の主要な死因には二次性の細菌性肺炎が多いことを示し、サイトカインストーム仮説を否定できる可能性がある」とする研究成果を発表している。(後略)
このニュースに着目した理由
若年者を含むCOVID-19の最重症例を多数経験し、残念ながら亡くなられた症例も複数経験してきた。その中で当時、死因の一つとしてCOVID-19によるサイトカインストーム仮説が受け入れられていた。そのため、今回のメジャー雑誌への報告は二次性細菌性肺炎の警鐘に繋がるかもしれないと考え着目した。
私の見解
米ノースウェスタン大学の研究チームは、電子カルテデータに機械学習を適用することで、「COVID-19患者の主要な死因には二次性の細菌性肺炎が多いことを示し、サイトカインストーム仮説を否定できる可能性がある」とする研究成果を発表した。
実際には、人工呼吸管理を行うような重症例はVAP(人工呼吸器関連肺炎)のリスクをはらんでおり、COVID-19肺炎の悪化なのか、VAPなのかという判断を実臨床で下すことは難しい。喀痰培養の再検や画像データ、血液炎症所見、呼吸状態などから総合的に判断しているが、その明確な根拠はない。
日常臨床への生かし方
これまでの死因もすべてがサイトカインストームによるものではなく、実際には二次性細菌性肺炎もそれなりに発症しており、それが死因に関連している可能性があることを今回の研究は教えてくれた。これまで以上に二次性細菌性肺炎を念頭に置く必要があるだろう。
とはいえ、実臨床で行うことはこれまで通り、目の前の患者により広い視野で向き合い、愚直に必要な検査、診断、治療を続けていくことに変わりはない。今後また起こる可能性があるパンデミックに備えていく必要があると考えられる。
【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。