国内発の保険適用となったニコチン依存症治療アプリCureApp SC

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遠隔医療、デジタルヘルスを実現した禁煙治療

医師として診療にあたっていると、様々な疾患において喫煙がリスクファクターになっており、禁煙の重要性を実感します。
喫煙が原因となる病気には、鼻腔・副鼻腔がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、膵臓がん、子宮頸がん、膀胱がんといった多くのがんや、がん以外にも脳卒中、ニコチン依存症、歯周病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、呼吸機能低下、結核(死亡)、虚血性心疾患、腹部大動脈瘤、末梢性の動脈硬化、2型糖尿病の発症、早産、低出生体重・胎児発育遅延 など多くの病気や健康へ影響がみられます。
特に呼吸器内科の診療においては、COPDや肺がん、間質性肺炎の原因として喫煙があげられるため、禁煙を勧めることは日常的です。近年、禁煙外来を行う施設が増え、当院でも多数の患者さんが禁煙外来を受診しています。保険が適用され、5回の診療で禁煙習慣から抜け出し、健康維持に努めることができる大切な機会となっていました。
しかし、現在はコロナ禍であり、よほど調子が悪い、またはもともと頻回に通院する必要があるような病気を抱える患者さん以外は、病院へ来院すること自体が大きなハードルとなり、禁煙外来受診者は減少傾向でした。その他の生活習慣病患者も、電話再診を利用した「薬を薬局にもらいにいくだけ」のような状況が増えています。結果として、進行した状況で見つかる肺がんで受診されてすぐに重症となってしまうこともしばしば経験し、残念でなりません。
そんな中、CureApp社の「CureApp SC(ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー)」が、日本で初めて禁煙治療用アプリの保険適用が承認され、かなり話題となりました。アプリをダウンロードすることで実際の禁煙外来のように呼気中のCO(一酸化炭素)濃度を自宅で測定し、禁煙状況や副作用についても確認可能です。

この治療用アプリは、ニコチン依存症患者に対して標準禁煙治療プログラムを実施する際、禁煙補助薬であるバレニクリン(商品名:チャンピックス)を用いた禁煙治療の補助を行うシステムです。患者が医師の診察後に、処方を受けてスマホからアプリをダウンロードします。患者の呼気に含まれるCO濃度の測定結果や、患者の入力した喫煙状況など、個人に併せた形で、動画やメッセージがアプリから送られ、患者の行動変容を促すというものです。自宅にいながらにして、介入頻度があがることも期待できます。
また、ニコチン依存症の治療方法自体は、今までと全く変わりません。基本的には、12週間で5回の通院(2回目~4回目はオンライン診療も可。現在は一定制限の下、初診からのオンライン診療が時限的・特例的に可能。*¹)と、毎日の服薬、禁煙日記の記録を行いますが、ついついタバコを吸ってしまいそうになる通院と通院の間の期間に、「CureApp SC」治療アプリ®︎を使用する。これによって、患者さん一人ひとりに個別化された医学的に適切なサポートをリアルタイムに行うことができ、医療の質を高めていきます。
さらに、オンライン診療での有効性が通院より劣っていないことが検証されており*²、禁煙を希望しているが通院を希望しない患者さんにも利用しやすい治療用アプリです。
このニコチン依存症治療用アプリは、保険適用が承認される際に、呼気CO濃度を測定することに意義がある一方で、加熱式たばこではCOが少ないため、加熱式たばこの場合は役に立たないのではないかという批判もあり、アプリの利用対象は呼気COが上昇するたばこを吸う患者となっています。(加熱式たばこを吸う患者は利用の際、医師との相談が必要。)*³
また、このアプリの保険適用承認がされた、中央社会保険医療協議会総会では、アプリの保険適用をめぐるルール化や、医療保険財政への影響を懸念する声があがったそうです。この総会では、アプリの保険適用について、通常の医薬品や医療機器の承認プロセスと同様、有効性や安全性が確認され、薬事承認されたものを保険適用する原則が、改めて確認されました。「CureApp SC」は、国内第Ⅲ相多施設共同臨床試験において、主要評価項目の継続禁煙率が統計学的に有意に高い結果となりました。このような臨床試験によって薬事承認を受け、今回保険適用という正しいプロセスを経ています。さらに、ニコチン依存症治療においては身体的依存を禁煙補助薬で治療し、心理的依存を治療するためのサポートとしてこの治療用アプリは有用であると考えられます。
CureApp社ではニコチン依存症治療アプリの他、非アルコール性脂肪肝炎治療アプリを東京大学消化器内科との共同で、また、高血圧治療アプリを自治医科大学との共同で臨床試験を行っています。高血圧治療アプリは、国内第Ⅲ相多施設共同無作為化比較試験での主要評価項目において、統計学的な有意差が認められ、その降圧効果が確認されたことを報告し、今後薬事承認申請を行う予定とのことです。

最後に、コロナ禍で常時新型コロナウイルス感染症診療を行いながら、様々なデジタルヘルスに関心を高めている現役臨床医として、このような治療用アプリは有用だと考えます。さらに普及させていくことで、長期的に様々な喫煙をリスクファクターとする病気の減少、医療費削減などにつながる可能性があり、今後の開発にも期待しています。
(了)


【脚注】
*1
新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることに鑑みた時限的・特例的な対応として、一定の制限の下、初診からの電話や情報通信機器を用いた診療を行って差し支えないことが示された。
「禁煙治療のための標準手順書 第 8 版」 日本循環器学会禁煙推進部会分, (2021/05/07) https://www.j-circ.or.jp/kinen/anti_smoke_std/pdf/anti_smoke_std_rev8_.pdf
*2
Clinical Efficacy of Telemedicine Compared to Face-to-Face Clinic Visits for Smoking Cessation: Multicenter Open-Label Randomized Controlled Noninferiority Trial」 National Library of Medicine  (2021/05/07) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30982776/
*3
加熱式たばこ等を使用している患者は本品の対象外となっている。
「2020年6月19日 薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会 議事録」厚生労働省ウェブサイト、(2021/05/07) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13540.html
禁煙開始前に呼気測定を行ったケースにおいてCO濃度が10ppm未満という測定結果であった場合には、「CureApp SC」の効果効能を保証するものではない。ただし、加熱式たばこにおいてもCO濃度が10ppm以上となる場合があるため、加熱式たばこ使用者に対する禁煙治療を行う場合には、担当医は事前に患者の喫煙 状況を確認してご使用ください。
(CureApp SC患者向け取り扱い説明書 第2版)https://sc.cureapp.com/p/instructions/instructionsForUseToPatient.pdf


【参考文献】


株式会社シーエムプラス「LSMIP」から許諾を得て転載する。
国内発の保険適用となったニコチン依存症治療アプリCureApp SC | LSMIP

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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