「COVID-19の難治化をバイオマーカーで予測」に臨床医が思うこと

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呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏が、医療DXに関わるニュースや論文に率直にコメントします。

目次

対象のニュース

新型コロナの難治化バイオマーカーを特定、血液検査で予測可能に

大阪大学、医薬基盤・健康・栄養研究所、大阪刀根山センター、日本医療研究開発機構の研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の難治化を予測するバイオマーカーを特定した。これまで、COVID-19の難治化を簡単に予測する方法はなく、臨床現場で課題となっていた。研究グループは、COVID-19患者の血清エクソソーム(細胞から分泌されるカプセル状の物質)を最新の蛋白網羅的解析(プロテオミクス)の手法で解析。3046種類のタンパク質の中から、新しいバイオマーカーを同定した。(後略)

このニュースに着目した理由

昨今は新型コロナワクチンや治療薬により重症化する患者は以前ほど見られなくなった一方で、基礎疾患のある患者の重症化が散見される。そのため、今後もこの感染症とうまくつきあっていく必要があり、その重症化・難治化を予測するバイオマーカーの存在が望まれる。実際に呼吸器内科医である私も重症例のコロナ対応を行っているため、事前に予測できればと感じることがあり、このニュースに着目した。

私の見解

今回の研究では、COVID-19患者の血清エクソソームをプロテオミクスの手法で解析しており、3046種類のタンパク質の中から、新しいバイオマーカーである「MACROH2A1」を同定している。当然、研究ベースでの測定ではあるものの、血清から検出できるというのは現実的に臨床に応用しやすいと考えられる。

というのも、呼吸器分野においては、気管支肺胞洗浄液の解析が行われることがあるが、COVID-19患者に気管支肺胞洗浄を行うことは感染対策上もリスクが高く、また、肺胞洗浄による呼吸状態悪化なども危惧されるためである。

日常臨床への生かし方

これまでCOVID-19の重症化を引き起こす様々な因子が明らかになってきている。国内では「コロナ制圧タスクフォース」の多施設共同研究において、COVID-19患者検体の大規模ゲノムワイド関連解析が行われ、その結果、「DOCK2」と呼ばれる遺伝子領域の多型が、65歳以下における重症化リスクと関連性を示すことが明らかとなった。さらにDOCK2 はCOVID-19の重症化マーカーとなるだけでなく、様々な研究によりCOVID-19の治療標的となることが報告されている[1]

今回の研究においても、このバイオマーカーの発見から、血液を用いた簡便な難治化予測やハイリスク患者の層別化、さらには新薬開発のターゲットになる可能性もあるため今後の研究の発展に期待したい。

参考文献
[1]DOCK2 is involved in the host genetics and biology of severe COVID-19. Nature . 2022 Sep;609(7928):754-760.

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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