マスク内でCO2をモニタリングする「スマートフェイスマスク」が登場

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マスク内でCO2をモニタリングする「スマートフェイスマスク」が登場――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(38) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、コロナ禍で誰もが毎日着用するマスクに関連したウェアラブル測定システムに関する研究をご紹介します。

目次

コロナ禍で注目されたCO2センサ

さて医師をはじめとした医療従事者であればCO2センサと聞くとどんなものを思い浮かべるでしょうか。コロナ禍以前では、挿管患者の呼気終末二酸化炭素ガス分圧をモニターするカプノメータを思い浮かべたかもしれません [1]。カプノメータは、集中治療を行うような挿管、人工呼吸器を装着した重症患者さんのCO2をモニターしたりするのに使用します。

しかし、換気の重要性が叫ばれる現在、CO2センサは換気が十分かどうかの指標として飲食店など様々な場所で使用されるようになりました。粗悪な製品が出回るなど一部問題となり、経済産業省からは「二酸化炭素濃度測定器の選定等に関するガイドライン」の策定が行われ、通達されています[2]。

CO2に関連して注意することは?

呼吸器疾患を専門とする私自身は、CO2と聞くと、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さん の呼吸機能がゆるやかに低下した状況や、感染などに伴いⅡ型呼吸不全を呈した状況を思い浮かべます。

Ⅱ型呼吸不全は重症化するとCO2ナルコーシスを起こし、呼吸停止のリスクもあることから、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)や挿管下人工呼吸器療法が必要になることもあります。COPDの患者さんはもともと肺機能が低下していますので、NPPVや挿管下人工呼吸器療法を行っても救命が難しいことがしばしばあります。

特にCOPDの患者さんが肺炎を合併している時には、NPPVを行うことで痰の喀出がうまくいかず、結果として病状がなかなか改善せずに難渋することも珍しくありません。

また、医原性のCO2ナルコーシスに関しては酸素マスクで低流量の酸素を使用していることで呼気のCO2を再吸入してしまい、CO2ナルコーシスを起こしてしまうこともあるので十分注意が必要です[3]。

フェイスマスクによるCO2モニタリング

さて、前置きが長くなりましたが、タイトルにもある「スマートフェイスマスク」について紹介します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急速な世界的拡大を抑制するため、大多数の国でフェイスマスクの着用が広く義務づけられています。特に日本においてはもともとマスクが比較的受け入れられやすい風潮なこともあり、一部の人を除けばマスク着用が徹底されています。

しかし、フェイスマスクの長期使用はCO2再呼吸による悪影響を及ぼす可能性があることが指摘されています。もちろん、いくつかの研究では、マスク内CO2濃度増加による生理的影響は無視できると報告されているのですが、その一方で、心拍数や呼吸数の増加を伴う血中酸素飽和度の統計的有意な低下や、ユーザーの不快感という結論を指摘する研究者もいるのです。

最近ではマスク内でCO2を測定するための携帯型のハードウェアが報告されています。自作のものもありますし、多少かさばる形の複雑な機器も提案されています。これらのシステムでは、非常に信頼性の高い分解能のデータを収集できますが、そのサイズと電力要件のために実験室での実験に限定されており、実際のウェアラブル測定システムを提供することはできていません。

そこで、より実環境に近い測定結果を得るために開発されたのが、CO2のリアルタイム測定プラットフォームです [4]。この非侵襲的なプラットフォームは、室内空気環境の評価など、他の多くの状況でも使用できますが、そのコンパクトなサイズのおかげで、マスクの内側面に設置することができます。

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出典:https://www.nature.com/articles/s41467-021-27733-3

このデバイスに搭載されているのは、光化学センサとフレキシブルなバッテリーレスタグです。また、ワイヤレス給電、データ処理、アラート管理、結果表示、共有のためのカスタムスマートフォンアプリケーションも搭載されています。

このようなシステムを搭載したマスクを使い、日々の活動や運動モニタリングのパフォーマンステストを行ったところ、非侵襲的なウェアラブル健康評価が有用であるということが実証されました。また、このテストの結果によって、前臨床研究や診断に応用できる可能性もあることがわかりました。

このスマートフェイスマスクの興味深いところは、安静時のCO2をモニタリングするだけでなく、サイクリングなどの運動時のモニターも可能だということです。そのため、COPD患者のマスク内CO2を非侵襲的に測定するだけでなく、運動前後のモニタリングとしても有用なツールとなる可能性を秘めています。

今回はCO2に注目した昨今のニュースとともに、マスク内CO2を測定できるスマートフェイスマスクに関する研究をご紹介しました。毎日着用しているマスクでCO2を測定すれば、新たな健康に関するプロファイルが得られるかもしれません。これはぜひ使用してみたいですね。毎日マスクを着けるのにうんざりしている方もいるかもしれませんが、このような新たなデバイスに注目してみると、少し気の持ちようが変わるかもしれません。

【参考】
[1]日本光電 CO2センサキット TG-980シリーズ
[2] 経済産業省 二酸化炭素濃度測定器の選定等に関するガイドラインを策定しました
[3] 酸素療法マニュアル
[4]Smart facemask for wireless CO2 monitoring

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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