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外科医と感染症専門医がタッグ! SNSで抗菌薬適正使用支援――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(59) | m3.com AI Lab
呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。
今回は、感染症に関連するメジャーペーパーであるClinical Infectious Diseasesの「感染症におけるデジタル戦略とソーシャル・メディア」という特集内で掲載された論文についてご紹介します[1]。
主要な医学雑誌においてもデジタル戦略やソーシャル・メディアに注目が集まっているということで、とても興味深くこの特集を読みました。特に最近はソーシャル・メディアを用いた学会での発信なども注目されますよね。
Twitter(X)で抗菌薬適正使用支援!
近年、多くの病院では、抗菌薬適正使用チームが設定され、適正使用支援を行っています。しかしながら、一般的に外科医はそのチームに関わるケースが少ない傾向にあります。今回ご紹介する論文では、ターゲットを外科医に絞り、感染症スタッフと共にTwitterを利用して抗菌薬適正使用支援を行った事例を報告しています[2]。
抗菌薬適正使用支援とは、感染症専門の医師や薬剤師、臨床検査技師、看護師が個々の患者に対して主治医が抗菌薬を使用する際、最大限の治療効果を導くと同時に、有害事象をできるだけ最小限にとどめ、いち早く感染症治療が完了できるように支援を行うことです[3]。
私も抗菌薬適正使用チームに所属して日々その支援を行っています。当院では外科医の方もチームに入っており、術後感染などの際には重要な知見をお寄せいただいているため、うまく機能していると感じています。
この論文では、外科医への抗菌薬適正使用支援が重要だとして、外科医と感染症専門医がTwitterで連携し、外科医を巻き込むための戦略を打ち出しました。
まずは院内の外科医に、Twitterでフォローすべき外科医を教えてもらいリスト化します。その際、影響力を考慮して外科医のフォロワー数が多いアカウントを含めてもらいます。
そして、リスト化した外科医のTwitterアカウントとその感染症情報リンクを含めて外科医にツイートします。
外科医がもしフォローしてきたら、今後のツイートに含めるためにリスト化します。そして共通の関心を持つ感染症トピックが見つかったら、外科医にダイレクトメッセージを送って、その内容について話しあいます。また、ハッシュタグなども利用することでツイートの可視性も高めました。
この試みの中で最もエンゲージメントの高いツイートのやりとりがあったのは、2015年に発生した内視鏡に関連する医療危機のときでした。この事例では、内視鏡的逆行性膵臓十二指腸造影術の後、内視鏡がカルバペネム耐性腸内細菌に汚染され、複数の患者が死亡したことが発覚しています。
このときに消化器外科医と一般外科医に対するツイートでは、発生に関するCDCの最新情報とカルバペネム耐性腸内細菌感染症の抗生物質治療に関する感染症記事へのリンクがリアルタイムで提供されました。このツイートは、72時間で3000以上のインプレッションを獲得しました。重要なのは、この緊急情報ツイートが外科医にリアルタイムで広まったことです。
また、この研究終了後もTwitterでの試みを継続した結果、Twitterのダイレクトメッセージをきっかけに、術後感染症やマイクロバイオームの役割について互いに興味を持ち、電話で会話をすることになったということもあったようです。
出典:Surgeons, Infectious Diseases, and Twitter Hit a Home Run for Antibiotic Stewardship | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic (oup.com) https://academic.oup.com/cid/article/74/Supplement_3/S251/6585958
感染症専門医不在病院の切り札となるか
今回ご紹介した雑誌には、Twitterを利用した感染症ジャーナルクラブの教育効果や感染症教育におけるソーシャル・メディアの活用法など、近年のソーシャル・メディアの普及に寄り添ったかたちでの研究が紹介されていました[4, 5]。
感染症専門医は新型コロナウイルス感染症で脚光を浴びましたが、その絶対数はそもそも不足しています。そんな中で、非専門医もソーシャル・メディアをうまく利活用し、感染症教育、感染症情報の取得を行えるといいですよね。
感染症専門医不在の病院は全国的にもかなり多数あると思いますが、実際にはzoomなどを介したwebでのコンサルテーションや教育を行っているという現状を耳にします。
コロナ禍において、ソーシャル・メディアを上手に利用することでますます正しく、そして迅速に感染症情報を取得できると実感しています。それと同時に、間違った情報もあふれているため、その情報ソースをきちんと確認して実臨床に生かすことが大切ですね。
【参考】
[1] Volume 74 Issue Supplement_3 | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic (oup.com)
[2]Surgeons, Infectious Diseases, and Twitter Hit a Home Run for Antibiotic Stewardship | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic (oup.com)
[3] 環境感染学会 Antimicrobial stewardship program実践のためのガイダンス (kankyokansen.org)
[4] Educational Impact of #IDJClub, a Twitter-Based Infectious Diseases Journal Club | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic (oup.com)
[5] The Digital Classroom: How to Leverage Social Media for Infectious Diseases Education | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic (oup.com)
【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。