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質量分析装置とAIは薬剤耐性の検出を高速化する:Cadetto.jp (nikkeibp.co.jp)
今回は、最近話題の薬剤耐性菌に関するAI研究論文を紹介します1)。
近年、薬剤耐性菌の問題が深刻化しており、抗菌薬の適切な使用が重要な課題となっています。特に新しい抗菌薬の開発が停滞しているため、既存の薬剤を効果的に使うことが求められています。厚生労働省もAMR対策アクションプランを策定し、医療現場での認識が広まりつつあります。
医療機関では、AST(抗菌薬適正使用支援チーム)を組織し、抗菌薬の使用を適正化する取り組みが進んでいます。抗菌薬の使用を減らすために、培養結果に基づいて薬剤をde-escalationしたり、抗菌薬の使用期間をチェックすることで、無駄な薬剤使用を防いでいます。
一方、培養による微生物の同定には時間がかかり、その間に不適切な抗菌薬が投与されるリスクがあります。特に重症患者には広域抗菌薬が投与されることが多く、薬剤耐性を防ぐためにも早期の菌同定とde-escalationが望まれています。
近年、MALDI-TOF MSという質量分析技術が導入され、微生物を迅速に同定できるようになりました。この技術は数分で細菌を特定でき、さらに機械学習を組み合わせることで、抗菌薬耐性の予測も可能になります。研究によれば、MALDI-TOF MSを使ったアルゴリズムは、重要な病原体に対して高い予測精度を示し、治療方針の決定を迅速化できる可能性が示されました。
臨床研究でも、この技術を用いることで治療が改善されたケースが報告されており、MALDI-TOF MSとAIの組み合わせが抗菌薬適正使用の新たなツールとなる可能性が示唆されています。AI技術が医療現場での薬剤感受性評価において、抗菌薬の管理を大幅に進歩させることが期待されています。
文献
1) Direct antimicrobial resistance prediction from clinical MALDI-TOF mass spectra using machine learning. Nature Medicine 2022;28:164–174
https://www.nature.com/articles/s41591-021-01619-9
2)薬剤耐性(AMR)対策について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
3)BRUKER 微生物分類同定分析装置MALDI バイオタイパー : 日立ハイテクサイエンス
https://www.hitachi-hightech.com/hhs/product_detail/?pn=ana-maldi-biotyper
4)日本微生物資源学会誌 川﨑浩子, 「MALDI-TOF MS微生物同定技術─原理とデータ取得─」
Microb. Resour. Syst.2019;35:60-67.
https://www.jsmrs.jp/journal/No35_2/No35_2_60.pdf