咳の鑑別、医師とAIどっちが上手?

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呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏が、医療DXに関わるニュースや論文に率直にコメントします。

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対象のニュース

結核患者の咳をAIが聞き分け、スマホ診断で新トレンド

結核と他の呼吸器疾患を咳の音で区別できるスマホアプリが開発された。音を使って病気を診断するというAI医療の新トレンドは大きな可能性を秘めている。 (後略)

このニュースに着目した理由

結核は今でも年間1万人以上の患者が国内で発生している[1]。結核低蔓延国の水準を達成しているとはいえ、今でも日常臨床で結核患者に遭遇する。吐血と思って胃カメラを行ったあとにCTで肺野に結核を疑う所見がみられて肺結核の診断に至ったということも経験する。結核の診断自体非常に難しく、疑わなければ診断できない疾患の一つである。そんななか、咳をAIが聞き分けて診断できるという報告に興味を持ち、着目した。

私の見解

咳をAI診断に用いるという報告は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した時期にも話題になった[2]。このような咳の音響分析に焦点を当てたスタートアップ企業が30-40社ほど誕生したとのことだが、オーディブルヘルスAIはCOVID-19の診断を目的としたモバイルアプリの開発をはじめ、インフルエンザや結核にも取り組みを広げているとのこと。咳だけでなく、声や呼吸音などの音響分析に関しても大規模データベースを開発しているとのことで今後の研究が進むことに期待したい。

日常診療への生かし方

実際、日常臨床では、咳がみられる患者さんの診断は非常に難しい。喀痰を伴うのか、期間が短いのか、長いのか、他の症状(血痰、息切れ、胸痛など)を伴うのかなどをもとに身体所見や胸部X線やCT、血液検査や細菌学検索などを総合的に判断し、確定診断に至る。

一方で、受診前から「結核っぽい」などスクリーニングできると、感染対策上も利点があると考えられる。通常だと、紹介元からの紹介状で結核疑いと記載されていることが少なく、経過や画像を見て結核が疑われるとして隔離環境で診察を行う。今後の音響分析を用いたAI診断が日常臨床で使用できるほどの有用性をぜひ見出してほしい。

参考文献

[1]結核(BCGワクチン) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
[2]咳を出させて無症状のCOVID-19感染患者を識別するAI – MITが発表 | 医療とAIのニュース・最新記事 – The Medical AI Times

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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