10周年を迎えるHealthtech Summit 2024レポート

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10周年を迎えるHealthtech Summit 2024レポート――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(208) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、Dr.心拍が国内最大級のヘルステックイベントとも言えるHealthtech Summit 2024に実際に会場参加して感じたことをレポートいたします[1]。Healthtech Summit 2024は、今年10回目となり、また主催であるメドピア株式会社も創業20周年という節目のイベントになります。興味深いセッションを2つご紹介します。

目次

Session1 Well-beingを実現するアプリやプラットフォーム

最初に参加したプログラムは、「Session1 Well-beingに実現するワクワクする世界」です。モデレーターは堂上研さんと川島恵美さん。堂上さんは博報堂から新規事業として立ち上げた株式会社ECOTONEの代表取締役社長であり、月間PV30万というメディア「Wellulu」を運営しています。川島さんは産業医でもあり、産婦人科医としての経験や公衆衛生の知見を生かしてさまざまな企業に貢献されています。

デモワーとして株式会社PREVENT 代表取締役の萩原悠太さん、株式会社ウェルネス 代表取締役医師の中田航太郎さん、そしてVIE株式会社/取締役COOの楠富智太さんが登壇されました。

萩原さんは、「Mystar」という生活習慣病保有者向けの生活習慣病管理、重症化予防に特化したアプリを紹介しました。利用者はライフログや健康行動の記録などの疾病管理、医療専門職とのチャットなどを介して自身の健康作りを進めることが可能です。プログラムは2週間ごとの医療職との面談をもとに目標を立てて実行していくものになります。

本プログラムでは、Mystarの中期的な効果検証を発表しました。レセプトや健診データを用いたリスク評価にて、脳心血管疾患発症の高リスク判定を行い、レセプトデータにて疾病発症や医療費を評価しています。

脳心血管疾患での入院イベント発生率は非参加群の3.7%に対して参加群では1.2%と低い結果となりました。また、イベント入院した際の医療費は中間値ではそれほど変わりがない一方、最大値で比較すると大きな差となっていました。

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次に、中田さんは「Wellness」を紹介しました。こちらは、PHRデータを活用したパーソナライズ予防ケアプラットフォームです。主力事業のウェルネスメンバーシップでは専属医師がパーソナルドクターとして定期的に面談を行い、検査内容や生活習慣病改善について戦略的アドバイスを提供しています。

また、こちらは365日直接相談が可能です。多忙なビジネスパーソンや経営者にとって効率的な健康管理法として600名以上の方に利用されています。

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そして、楠富さんの紹介する「VIE Tunes」は神経科学に基づくニューロミュージックが聴ける音楽アプリです。特定の脳波のシータ波やガンマ波などを増強する音を用いて制作された楽曲のみを配信しています。

VIE Tunes plusはイヤホン型脳波計と連携して脳波を取得しながらニューロミュージックを聴ける進化版アプリです。聞いている時に覚醒スコアを表示して脳波の変化量を可視化します。脳科学と音楽の力で心身を整え、科学的根拠に基づく新しい体験を提供します。楠富さんは「エンタメを薬にする」ブレインテックとして事業をご紹介されていました。

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この後は登壇者によってさまざまなディスカッションが行われましたが、我々医療従事者も病気になった患者さんだけに目を向けるのではなく、予防などの観点で何か貢献できることもあるのではないかと学ぶ必要があると感じました。

最大の盛り上がりをみせたピッチコンテスト

次に、スタートアップ企業が最新の技術・ソリューションを発表するピッチコンテストにも参加しました。決勝戦に残った企業のサービス内容を紹介します。

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1.メディカルギーク株式会社:病院で働く看護師の業務改善SaaS

看護師が実施する入院業務は患者一人当たり平均160分というデータがあるそうです。その業務改善を行うために開発されたプロダクトとして「scree」が紹介されました。

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Screeでは、入院時の情報を収集し、書類の作成を行います。Screeを導入することで入院業務が従来と比較して最大40%削減したそうです。業務効率化による間接コストを抑えることはできますが、このプロダクトを導入するコストをどこから確保するのか、また直接保険点数がつかないためビジネスモデルとしては課題が残る印象を持ちました。

2.株式会社MentaRest:メタバースを活用したアバターカウンセリング

株式会社MentaRestが提供する「MentaRest」はメタバースでメンタルを整えるサービスです。

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VRアバターは素の自分を出しやすいという先行研究があります。カウンセリングは治療的なアプローチと考えがちですが、予防にも十分効果があると考え実証実験を行っているとのことです。確かにメンタルヘルスということもあり、VRアバターを使うことでハードルが下がりそうな点は良いなと感じました。

3.Toi Labs, Inc.: AIを搭載した便座

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Toi Labs, Inc.が提供するAIを搭載した便座の「TrueLoo」は生体認証と精密な排泄データによって健康を継続的にモニターします。現在介護施設で導入されているとのことですが、医療従事者が限定されている施設だからこそ役に立つのではないかと思いました。AIの導入に際してよくあることですが、誰がその責任を取るのかというところが難しい課題かもしれません。病院であればそれほど需要は大きくないため、マーケットは介護施設に限定されるのではないかと思いました。

4.アイラト株式会社: AIによる放射線治療計画支援サービス

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結果から先に言うと、この会社の提供する「RatoCheck」というAIによる放射線治療計画支援サービスが最優秀賞として表彰されました。「RatoCheck」の導入によって高精度な放射線治療が6時間から20分で実施できるようになり、医師等の業務効率化と治療効果向上につながるとのこと。

放射線治療は昨今の癌治療においても非常に有用な治療選択肢ですが、放射線治療医不足で治療が限定されているのが現実です。業務効率化による収益性も見込めるため、非常に有用なサービスだと考えられます。

5.株式会社フィグメント:医療機関とフィットネスクラブの連携支援プラットフォームサービス

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株式会社フィグメントが提供するサービスは、フィットネスクラブからの月額サービス利用料と入会者数に応じた成果報酬手数料を収益源とするそうです。ただ、フィットネス業界自体が厳しい中でその手数料のみでマネタイズするのでは厳しいのではないかという印象を持ちました。医療機関にはさらにその一部が還元されるということですが、少ない利益のためモチベーションを維持するのが難しいかもしれません。

6.株式会社 しずロボ:神経外科領域次世代手術ロボット&AIシステム

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株式会社 しずロボの開発した神経外科用ロボットシステムは5年間で償還するとのことで、ダヴィンチなどロボット手術が普及している中でニッチながら普及すると大きな成果につながるのではないかと感じました。ただ、どこの施設でも導入できるというわけではないためマーケティング戦略も重要なのではないかと思います。

7.株式会社BeLiebe:働く女性のキャリアと妊娠の両立を叶える卵子検査キット

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株式会社BeLiebeは卵子数の推移がAMHホルモン濃度でわかるという「EggU」という簡易キットを提供しています。妊孕力を検査するひとつのツールではありますが、そのキットを使用した後にどのようにサポートするかなどが重要だと思います。

医療機関側からすると、保険収載されていない民間のキットで「病気かもしれない」と受診されるとやや現場が混乱します。N-NOSEなどでも少し問題となりましたよね。そのあたりも明確化すると良いのではないでしょうか。

8.株式会社ベスプラ:中高齢者向けの脳と体の健康維持アプリ

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認知症予防に向けた「脳にいいアプリ」は、生活習慣病予防効果として血圧が3%低下、BMIが19%低下したという実証結果や、認知症予防効果として認知症を9年遅らせる実証結果を出しており、非常に興味深いと感じました。さらに健康アプリで健康ポイントを付与することでモチベーションを維持しているところが工夫されています。誰でも健康にいいとわかっていても継続できないのが常ですので……。

受賞したアイラト株式会社、メディカルギーク株式会社、株式会社べスプラ、本当におめでとうございます。ぜひITの力で医療業界を盛り上げていただきたいです。

今年は10回記念ということもあり、これまでの10年を振り返り、そして今後10年を展望するようなイベントとなったと思います。個人的にはレポートには触れませんでしたが、オフレコセッションでは生の声を聞くことができて非常に興味深いと感じています。

また、何度見ても緊張感とワクワク感が伝わってくるピッチセッションは非常に見応えがありました。現場の医療従事者を巻き込んだセッションもあると、より医療従事者にとってヘルステックが身近になって良いのではないかと思いました。今後に期待したいと思います。ぜひ開催が継続されることを願っています。

【参考】
[1] Healthtech Summit 2024

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (X: @dr_shinpaku)
https://X.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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