X線写真の骨折を見逃さないAIがあなたの隣に?

日経メディカルで掲載された執筆記事の要約を公開します。医師の方は下記URLからお読みください。

X線写真の骨折を見逃さないAIがあなたの隣に?:Cadetto.jp (nikkeibp.co.jp)

今回は、単純X線写真から骨折を診断する際に人工知能(AI)を活用することで骨折の見逃しを減らすことができるという研究論文を紹介します1)

骨折の診断と治療は主に整形外科で行われますが、患者が整形外科を受診するのは平日の日中だけではありません。休日や時間外には救急医や外科系当直医が骨折の有無を単純X線で判断することが多いですが、整形外科医が当直している病院は少なく、単純X線は放射線科医による読影が行われないことが一般的です。CTやMRIで骨折を判定することもできますが、これらの検査は時間やコストがかかるため、単純X線での判断が重要です。

この研究では、24人の医師が上肢、下肢、肋骨、胸腰椎の骨折が写った480枚のX線写真をAIの支援がある場合とない場合で診断性能を比較しました。基準として筋骨格に詳しい放射線技師の読影が用いられました。AIの支援により、骨折の診断の感度が64.8%から75.2%に向上し、特異度も90.6%から95.6%に改善しました。特に感度の向上は多くの解剖学的領域で有意でしたが、肩、鎖骨、脊椎では統計的な有意差は認められませんでした。また、AIの支援により読影のスピードも平均6.3秒速くなりました。

この研究結果は、AIの支援が骨折診断の感度と特異度を高める可能性を示しています。しかし、AIの役割には限界があります。例えば、腫瘍による骨転移などの特殊なケースでは、整形外科医による専門的な診察や他の検査(問診、血液検査、身体診察)が必要です。骨折が単なる外傷によるものか、あるいは骨転移や骨粗鬆症、関節リウマチなどの他の病態に起因するものかを判断するには、AIだけでなく総合的な診断が求められます。

とはいえ、救急外来のセッティングで取り急ぎ骨折の有無を判別するのが診察の第一歩という状況も少なくありません。そしてそんなときほど骨折の判断に迷う、あるいは見逃してしまうリスクがあると言えるでしょう。そんなとき、このAIが寄り添ってアドバイスしてくれるなら、とてもありがたいのではないかと思います。

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文献

1)Improving Radiographic Fracture Recognition Performance and Efficiency Using Artificial Intelligence | Radiology
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.210937

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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