iPhoneがもたらす病院DX、HITO病院の取り組みから学ぶ

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iPhoneがもたらす病院DX、HITO病院の取り組みから学ぶ ―Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(172) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

2024年4月から医師の働き方改革の新制度が施行され、昨今では業務効率化やタスクシフトなどのキーワードを耳にするようになりました。業務効率化の観点では医療DX、特に病院DXの導入によりその改善が見込まれる一方で、「実際の現場はすぐには変えられない」などといった保守的な意見も多い医療界。今回はそんな病院DXについて臨床医の視点で私見を述べたいと思います。

先日、社会医療法人石川記念会 HITO病院が執筆した書籍『iPhoneでできる病院DX』を読みました[1]。きっかけは、m3.comの「2021年度以降、新人看護師離職率「ゼロ」を実現 – HITO病院◆Vol.2」という記事を読んだことです[2]。このタイトルは、コロナ禍で多くの看護師、それも新人だけでなく、多くのベテラン看護師も辞められた当院では考えられないことです。

目次

iPhoneで業務効率化を実現

HITO病院が提示したデータによると、看護師の働き方改革によってチャットによる各勤務時間帯の申し送りを廃止、多職種ミーティングの削減などにより移動距離が1日当たり4~5km減少、それにより1日約100分の時間を創出したといいます。iPhoneというありふれたデバイスを中心として、医師だけでなく医療従事者全体の時間外労働を削減したのです。

一方、当院ではまだスタッフ間の連絡方法は院内PHSを用いています。働き方改革は医師だけでは成り立たず、多職種を巻き込むことが必要だと常々思っていたため、HITO病院の取り組みには衝撃を受けました。医師のタスクシフトにより看護師などの他の業務負担が増えてしまっては元も子もないのでどちらも効率化する必要がありますよね。

ゆっくりだが確実に進んでいる病院の業務効率化

しかしながらこういった転換期において新しいことを取り入れる、改革を行うということはなかなか難しいのが医療の世界です。医療AIやデジタルヘルス、病院DXなど関心がある層には興味深く受け入れられている一方で、多くの医療従事者にはまだ意識としてほど遠い感が否めません。

そのひとつが院内のペーパーレス化です。10年以上前に「なるべく紙運用をやめましょう」ということで院内ペーパーレス運用のためのチームが立ち上がり、多くの時間をかけていろいろ検討しました。その結果、紙も電子カルテシステムも両方運用するという結論になりました。電子カルテ内に情報はあるものの、紙を印刷しないと分かりにくいからと、結局、紙運用をやめられず、むしろタスクは増えていったのです…。

それでは病院DXの実現は難しいのでしょうか? いえいえ、決してそんなことはありません。これまでもゆっくりではありますが、いろいろなテクノロジーによる業務効率化に成功しているではありませんか。

たとえば、自分の経験でいうと、紙カルテから電子カルテ移行は複数回経験しました。これは大きな改革ではありますよね。移行期は大変でしたが、なんだかんだいって大半の病院は電子カルテに移行できていると思います。分厚い外来カルテを思い出します…。

電子カルテでいえば、カルテメーカーの差異、たとえば富士通なのかNECなのかなどで仕様が違うため、異動のたびに慣れるのに時間がかかるといった問題もありました。一方で、カルテの字が読めないということは全く無くなりました。開業医の先生からの紹介状はまだ多くが紙の手書きの紹介状のために、時折ほぼ読めないということもあります。ぜひ、「手書き紹介状は算定できない」といった改革を行ってほしいと思います。

すでに私用でiPhoneを利用している医療従事者はたくさんいると思いますので、今回、事例に挙げたHITO病院の取り組みは少し受け入れられやすいのではないかと思います。また、HITO病院では、人を巻き込んでいくストーリーも大切にしているので、上手に病院DXを進めていけたのではないかとも思います。それも含めて、今後の業務効率化のお手本にしたいと思っています。

iPhoneでテキストを用いたコミュニケーションへ

日常臨床では、職種によって時間の流れや業務の振り分けが違うことも忘れてはいけません。医師は主治医性(チーム制も一部取り入れられていますが)である一方、看護師はその日ごとに担当患者が変わります。休憩時間も、看護師は当院では2交代制で、たとえば1人は11時から12時、もう一人は12時から13時までといった方法ですが、医師は決まった休憩時間がないのでそれに合わせた処置時間の設定をしなければなりません。

また、院内の連絡方法がPHSの電話しかないため、急ぎの連絡と急ぎでない連絡が混在してしまい、仕事を効率的に進められないという現実に苛まれることもしばしば…。多くの業務効率化のための施策をすべて取り入れるのは難しいとは思いますが、まずひとつ始めるとすれば「チャットによるテキストを用いたコミュニケーション」が良いのではと考えています。なんでも電話ではなく、その緊急性や重要度によってうまく電話とテキストを使い分けることでスタッフ間の不要なストレスも減るのではないかと思います。看護師さんも、多忙な医師に気を遣って電話しにくいということもよく聞きますしね。

最後に、病院DXの前に大きな問題があります。普段、医師として病院勤務をしていると、なんでも医師の指示がないと進まないといった問題もあります。様々なサービスやプロダクトを用いることで業務効率化を進めていくことは大切ですが、まずはその前に現状の業務自体が適切な方法でなされているのか、無駄に業務を増やしていないのか、タスクシフト可能なのかなどをしっかり見つめなおす必要があると思います。その先に病院DXが活きてくるのだと考えています。

【参考】
[1]iPhoneでできる 病院DX
[2]2021年度以降、新人看護師離職率「ゼロ」を実現 – HITO病院◆Vol.2

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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