超聴診器や遠隔聴診システムの研究開発を行うAMI(後編)

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遠隔医療、デジタルヘルスを実現した超聴診器

AMI株式会社を一臨床医の私がどのようにして知ることになったのでしょうか。それは現在日本を含む世界中で猛威を振るう、「COVID-19」がきっかけでした。昨年の3月頃より、当院でもCOVID-19患者の受け入れを開始しました。当時は未知のウイルス感染症ということもあり、特に受け入れ1例目は現場の混乱もあり、不安を抱えながら診療を開始したことを覚えています。COVID-19患者の受け入れを開始したという噂から、診療に関わっていない職員の子供ですら幼稚園や保育園から受け入れを拒否されたりなどの差別的対応を受け、病院全体も、靄がかかったような暗い雰囲気になりつつありました。また、一部の職員だけがCOVID-19診療に関わることで、院内でも差別的対応があったことも否定できません。

そんなことも言っていられない第一波の中で、当院にも入院依頼が相次ぎました。軽症例だけでなく中等症の他院からの転院や入院して翌日に重症化して人工呼吸管理を必要とするような劇症型まで、受け入れ体制が整う前にそのような状況になり、疲弊するとともに不安な日々を過ごしていました。

そのような最中に、たまたま、SNSを通して、AMI株式会社の「COVID-19 遠隔聴診プロジェクト」を知りました。当時、様々な医療物資の不足が叫ばれる中、新型コロナウイルス感染症に対応する医療現場へ、遠隔聴診システム一式60セットの無償配布を行うというものでした。既に国内の医療機器として製造販売認証を取得していた電子聴診器*¹ですから、現場ですぐに使用でき、感染リスクを抑えながらコロナ禍でも聴診をしやすくし、当時の混乱の最中での医療への貢献のために行われたのでしょう。

さらに、AMI株式会社が素晴らしい企業だと感じたのは、その遠隔診療のための電子聴診器を無償配布するに当たって、なんの見返りも求めなかったことです。そのプロジェクトを通して製品の宣伝をするわけでもなく、高価な医療機器を当時最前線で診療をしている医療従事者の感染リスク低減のために無償配布してくださいました。そのような試みは当時、差別的扱いや医療物資が不足するなか、現場でCOVID-19診療にあたっていた医師としては感慨深いものでした。

AMI株式会社の開発する超聴診器は、解析・診断補助を行う人工知能聴診器です。このような開発を行う目的として、心疾患による突然死を減らすためとのことです。聴診というのは医師の経験やスキルに左右されるということもあり、早期に疾患を発見するためにも重要ですが、その医療者の耳に頼ることから難しい技術ともいえます。この聴診音を可視化・定量化することで早期に正確な診断を誰でも行うことができるという技術を開発しています。さらに、この超聴診器は心音と同時に心電図を取得することができるため、不整脈の検出もできるそうです。

心音などの循環器領域だけでなく、呼吸音などの呼吸器領域も含めた幅広い研究開発により、おそらく今後製品化されて現場でも使用できるようになるでしょう。呼吸器領域では、間質性肺炎のfine cracklesに関して、非専門医の先生や研修医の先生から聴診所見が難しいと聞きます。今後この超聴診器が使用できるようになると、我々の耳に頼るという技術は淘汰されていくかもしれませんね。

最後に、コロナ禍で常時新型コロナウイルス感染症診療を行いながら、様々なデジタルヘルスに関心を高めている現役臨床医として、このような超聴診器は感染対策という点においても有用だと考えます。さらには一般診療においても、心音や呼吸音などの可視化により、誰でも早期に診断できるような医療の現場になるとよいですよね。今後の研究・開発にも期待しています。

(了)


【脚注】
*¹ 2021年7月16日現在、AMI社の超聴診器は研究開発中で、販売は未だ行っておりません。


【出典】

この原稿の執筆に際し、掲載企業からの謝礼は受けとっていません。


株式会社シーエムプラス「LSMIP」から許諾を得て転載する。
超聴診器や遠隔聴診システムの研究開発を行うAMI(後編) | LSMIP

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。

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