呼気から新型コロナウイルスを検知する未来!?

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目次

空間光干渉顕微鏡でウイルス種の識別ができるように

アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームは、呼気検体を利用したSARS-CoV-2の新しい検知手法を提案しています[1]。『Light: Science & Applications』に掲載されたこの研究では、スライドガラスに向かって息を吹きかけるだけで、SARS-CoV-2の感染が検知できると記されています。

研究グループは、細胞観察に利用される空間光干渉顕微鏡(SLIM)を用い、ウイルス種の識別を可能とするAIシステムの構築に成功しました[2]。蛍光染色したSARS-CoV-2粒子画像およびSLIM画像からアルゴリズムをトレーニングすることで、ラベルのないSLIM画像からウイルスを高精度に識別できるようになります(図1、 図2参照)。AIは、SARS-CoV-2と、インフルエンザAウイルス、アデノウイルス、ジカウイルスなどのウイルス性病原体とを識別することを学習しており、前臨床試験では、SARS-CoV-2の検出・分類の成功率が96%と極めて有望な成果を上げています。

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図1:Label-free SARS-CoV-2 detection and classification using phase imaging with computational specificity | Light: Science & Applications (nature.com)

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図2:Label-free SARS-CoV-2 detection and classification using phase imaging with computational specificity | Light: Science & Applications (nature.com)

光学領域の技術・手法は、基礎研究においても発展がすさまじく、医学に応用した今回の報告は画期的です。今後さまざまなかたちで拡大していく可能性に期待したいと思います。

呼気でSARS-CoV-2感染検出とワクチン効果のモニタリング

イスラエルのNextGen Biomed社とScentech Medical社は、呼気からのSARS-CoV-2検出システムによってワクチン接種者の抗体の種類と抗体価をモニタリングする臨床研究について発表しています[3]。

Scentech Medicalの技術は呼気中の揮発性有機化合物からSARS-CoV-2の感染者・活動性の患者・無症候性キャリアといったグループの違いを検出できるだけでなく、さらにワクチン接種者に発現した抗体の種類(IgMおよびIgG)や抗体価も検出できます。そこで、同社では「ワクチンの有効性および持続期間のモニタリング」に関して臨床試験を開始し、Pfizer-BioNTechのワクチンをはじめすべてのワクチンを対象とした免疫モニタリング手法の確立を目指しています。

この技術において、呼気中の揮発性有機化合物から「SARS-CoV-2の感染者・活動性の患者・無症候性キャリアといったグループの違いを検出」できることに驚きを隠せません。実際の診療ではPCRや症状の有無、経過などから判断していますが、今後、呼気という検体からどれだけ情報が得られるのかに期待したいところです。

SARS-CoV-2を識別する呼気チェッカーの研究開発

SARS-CoV-2に対する標準検査法は、鼻咽頭スワブからPCR検査を行うというものです。しかし、この検査法では綿棒を強く差し込むのが不快ですし、PCR検査にかかる時間やコストも課題となっています。そこで症状や経過によっては唾液検体でPCR検査を行うこともありますし、どの施設でも行えて結果判明まで時間短縮可能な抗原検査も実際に行われています。しかし、施設入所時に行った抗原検査が陽性と判明し、急遽転院してくる患者も見かけます。

より迅速で安価で利用しやすい検査法として、呼気からSARS-CoV-2の感染を検出するセンサーが開発されました。この研究は、学術誌 『ACS Nano』に報告されました[4]。これまでの研究で、ウイルスとそれに感染した細胞からは、揮発性の有機化合物が呼気中に排出されることが知られていました。

研究グループはセンサーを用い、揮発性の有機化合物がナノ材料上の分子と相互作用して変化する電気抵抗を解析しました。被験者は数秒間息を吹き込みます。最適化された機械学習アルゴリズムは、COVID-19患者と健常者との識別で精度76%、COVID-19患者と他の呼吸器感染症との識別で精度95%、COVID-19患者と感染から回復した患者を精度88%で識別できました。

同様に国内でも、東北大学と島津製作所との共同研究により、呼気をサンプルとする「呼気オミックス」による新型コロナウイルス検査法の開発に成功しています[5]。

呼気オミックスは、呼気中のウイルスや、タンパク質、代謝物を解析する最先端技術です。今後、さまざまな感染症対策としても有効なほか、心血管・肺疾患、生活習慣病、動脈硬化、糖尿病などの代謝性疾患、がんなどの診断や健康管理、未病予防にも応用できます。将来的には遠隔医療などに展開して、呼気医療という未来型医療も確立されるかもしれません。

呼気という検体採取法は簡単に行うことができるうえ非侵襲的であり、国内外で多数研究が行われています。感染症だけに限定されず、さまざまな疾患や予防医療への応用など今後の研究に注視したいと思います。

【参考】
[1] 呼気から新型コロナウイルス感染を高精度識別
[2] Label-free SARS-CoV-2 detection and classification using phase imaging with computational specificity | Light: Science & Applications
[3] 呼気でCOVID-19感染検出とワクチン効果のモニタリング
[4] COVID-19を識別する呼気チェッカーの研究開発
[5] 息を用いた新型コロナ検査法を開発 -呼気オミックスによる未来型呼気医療への展開-

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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