COVID-19画像診断支援AIの限界とは?

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COVID-19画像診断支援AIの進化を追う ――Dr. 呼坂心の「デジタルヘルスUPDATE」(1) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

近年、AIによる画像診断の研究が流行っています。たとえばCT画像を用いて肺の結節性病変についてAIに学習させることで、90%を超える正確さで早期の肺がんを見分けることができた、というような報告を目にしたことがある方は多いかもしれません。

Googleやスタンフォード大学などの研究グループが2019年に『Nature Medicine』誌に報告した研究では、約4万2000枚の胸部CT画像を用いてAIに肺がんの特徴を学習させ、そのうえで約6700枚のCT画像をAIに解析させた結果、早期の肺がんを94%の正確さで見つけたという結果が示されています。[1]

「じゃあ、COVID-19の画像診断もAIで判定できるの?」このような疑問を持たれる方もいらっしゃることと思います。しかし、実は肺がんなど比べるとCOVID-19のAI画像診断の精度はまだあまり高くないのです。

この記事[https://aitimes.media/2021/03/30/7665/?9642]にあるように、Nature Machine Intelligence誌に発表された「COVID-19画像診断の機械学習モデル研究に対するシステマティックレビュー」によれば、方法論上の欠陥あるいは根本的なバイアスという落とし穴があり、COVID-19の画像診断AIが臨床利用できる可能性はまだ乏しい、と結論づけています。

目次

COVID-19の典型的/非典型的な所見

では、COVID-19を疑う画像所見とはどのようなものでしょうか。昨年からCOVID-19が世界中の脅威となっていますが、非特異的な症状であることからその診断は困難を極めています。

肺炎が疑われる患者さんがいる場合には、胸部X線や胸部CT画像から、COVID-19を積極的に疑う所見かどうかを判断することが日常的に求められるようになりました。さらに、たまたま別の理由でCTを撮影した際に、「これCOVID-19なの?」と疑われて画像の相談を日常的に受けることも増えてきました。日本医学放射線学会では、COVID-19を疑う所見として以下の4点を示しています。[2]

<COVID-19の典型的な所見>
①初期は片側性ないし両側性の胸膜直下のすりガラス影、背側または下葉優位
②円形の多巣性のすりガラス影
③進行するとcrazy-paving pattern(すりガラス影内部に網状影を伴う所見)やconsolidation(浸潤影)などの割合が増加
④器質化を反映した索状影の混在

典型的な画像所見をお示しします。[3]

(著者提供)

<COVID-19の非典型的な所見>
①すりガラス影を伴わない区域性の浸潤影
②空洞、境界明瞭な結節・腫瘤
③小葉中心性の粒状影、tree-in-bud appearance(腫大した分岐線状構造の先端に、比較的境界明瞭な小結節が連続して認められる)
④胸水(重症例ではみられることがある)

困難を極める間質性肺炎との鑑別

COVID-19の診断の難しいところは、特に間質性肺炎との鑑別です。実際の現場では、これまでの既往など様々な情報を複合的に捉えながら、「COVID-19らしさ」を判断せざるを得ません。それでも、最初はとりあえずCOVID-19疑いとして隔離入院し、経過の中で疑いが晴れた段階で隔離解除を行う、という運用をせざるを得ないこともしばしばあります。

つまり、COVID-19の画像診断所見のみを機械学習させても限界があり、複雑な状況を総合的に判断する必要があるため、臨床経過も合わせてさらに開発を進めていかなければならないのです。

ちなみに国内では、順天堂大学をはじめとした多施設共同研究において、「新型コロナウイルスによる肺炎CT画像のAIによる解析手法開発」が報告されています [4], [5] 。これは、胸部CT画像の情報をAIに入力することで、そのCT画像のCOVID-19肺炎の典型度が判定できるというものです。この研究開発においては、以下の工夫がなされています。

(1) 炎症により肺領域の境界の識別が難しい症例でもAIが的確に識別する手法実現
(2) 肺領域内部の領域を障害の程度に応じて3つの領域に自動分類
(3) 胸部CT画像のCOVID-19肺炎典型度をAIが的確に判断

これらの3つの観点で技術開発がなされており、その結果として83.3%の精度を達成したと発表しており、今後の発展に期待が集まります。

このように、AIによる画像診断では、肺がんと比較してCOVID-19には課題が多い状況といえます。さらなる知見の積み重ねにより、精度があがると良いですね。

【引用】

[1] End-to-end lung cancer screening with three-dimensional deep learning on low-dose chest computed tomography | Nature Medicine

[2] 公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0) (radiology.jp)

[3] Radiological Society of North America Expert Consensus Document on Reporting Chest CT Findings Related to COVID-19: Endorsed by the Society of Thoracic Radiology, the American College of Radiology, and RSNA – PubMed (nih.gov)

[4] 新型コロナウイルスによる肺炎CT画像のAIによる解析手法開発|順天堂 (juntendo.ac.jp)

[5] セッション3医療ビッグデータ 「医療画像データ蓄積・解析基盤」-J-MIDの取り組み COVID-19対応について (nii.ac.jp)
 
【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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この記事を書いた人

呼吸器内科の勤務医とライター、ヘルスケアビジネスに取り組んでいる。多様化する医師のキャリア形成とそれを実現するための「複業」に関する発信と活動を行っている。
ヘルスケアに関わる情報発信と人をつなぐことを目的としたメディア「Dr.心拍のヘルスケア最前線」を2024年9月リリース。
肺がんコミュニティや医師キャリアコミュニティを運営。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザー、また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行う。
事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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